古舘伊知郎:「エール」で29年ぶり朝ドラ出演に喜び “うさん臭い”役は「やりやすかった」

NHK連続テレビ小説「エール」に鶴亀寅吉役で出演している古舘伊知郎さん (C)NHK
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NHK連続テレビ小説「エール」に鶴亀寅吉役で出演している古舘伊知郎さん (C)NHK

 窪田正孝さん主演のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「エール」に鶴亀寅吉役で出演しているフリーアナウンサーの古舘伊知郎さん。1991年に放送された「君の名は」に主人公の友人役で出演して以来、29年ぶりの朝ドラ出演で、演じる寅吉は主人公・古山裕一(窪田さん)と文通相手の音(二階堂ふみさん)に演奏会開催を持ちかける興行主だ。2018年10月期の連続ドラマ「下町ロケット」(TBS系)では主人公のライバル企業の社長という悪役、今回はうさん臭い興行主役とアクの強い役が続き、古舘さんは「ちょっと似ていたから、やりやすい感じはありました」と笑顔で語る。古舘さんに29年ぶりの朝ドラ出演の感想や窪田さん、二階堂ふみさんとの共演について聞いた。

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 「エール」は、昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲を数々生み出した作曲家・古山裕一と、裕一の妻で自らも歌手になる夢を追い続ける音の音楽と共に生きる夫婦の物語。全国高等学校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」や、プロ野球・阪神タイガースの応援歌として知られる「六甲おろし」などを手がけた福島県出身の作曲家・古関裕而(ゆうじ)さんと、その妻・金子(きんこ)さんがモデルで、男性主人公の朝ドラは2014年度後期の「マッサン」以来約6年ぶり。

 ◇長男に続き朝ドラ出演「うれしかった」

 鈴木京香さんがヒロインを演じた1991年の「君の名は」で本間定彦役を演じて以来の朝ドラ出演。「君の名は」では出演回数が多く、当時F1の実況で世界中を回っていた古舘さんは「実況の仕事が入ると『すみません、出番少なくしてください』と言って、実況から戻ってきてちょっと出る、と不謹慎極まりない動きだったんです。役者じゃないので、文化祭気分でした(笑い)」と冗談も交えて懐かしみ、「そのときの経験があるので、もう一回呼んでくださったのなら、恩返しのために出なきゃ、と思いました」と明かす。また、長男の古舘佑太郎さんも以前、2017年度前期の朝ドラ「ひよっこ」で和菓子屋のヤスハルを演じたことから「親子で出るんだ、とうれしかったですね」とほほ笑む。

 演じる寅吉は、裕一が海外の作曲コンクールで入賞したといううわさを聞きつけ、裕一と音の2人に豊橋での演奏会の開催を持ちかける興行主。達者な口上で裕一らを説得にかかるうさん臭い人物だ。「下町ロケット」では、主人公たちの前に立ちはだかるライバル企業の社長として、やはりアクの強い役を演じた古舘さんは、「『下町ロケット』のときは、理由があるとはいえ、かなり悪い社長。今回はうさん臭いやつ。だから共通点はあると思います。『下町ロケット』では復讐(ふくしゅう)心のかたまりで、今回は(寅吉の)背景や奥行きは謎だけど、少なからずうさん臭い。ちょっと似ていたから、やりやすい感じはありました」と振り返る。
 
 さらに古舘さんは、うさん臭い人物を演じることについて「いい人を演じて様になるタマじゃないだろ、みたいな照れがあるんです。無理だよ、と。しゃべる仕事で『無理だよ』と言ったらプロ失格だけど、役だと、逃げが出ちゃう。いい人の役なんてむずがゆくて『柄じゃねーよ』と思ってしまう。でも、悪いやつとか癖のあるやつだと『ちょっと頑張ってやろうかな』と思うんです」と語る。

 自身の演技については、「下町ロケット」の経験が大きかったという。当時、演じる際に「顔で小芝居をする」癖があることを演出家から指摘されたといい、古舘さんは「クセ者の役を演じようとするとき、慣れていないくせに顔の表情とかを作って表現しようとしているのか、と……。せりふの“語り”で癖のある、悪いやつ感を出さないといけないときに、妙な小芝居はいらない。それで、せりふで勝負だな、というところに戻るわけです」と説明。「小芝居に走りすぎてはダメ、三文役者みたいになっちゃう。そうではなく、せりふに込めるメリハリ、緩急や、歌うようにせりふを言うこと……そっちへ戻っていくんだな、とすごく勉強になったんです」と語る。

 ◇オファー来ず嘆きも… 今後は映画に意欲

 寅吉は、主人公の裕一、ヒロインの音との共演シーンが見せ場だ。主演の窪田さんについて、古舘さんは「すごいな、と思いました」と感想をもらす。「スタッフに対する気遣いがすごい。窪田さんがちょっとふざけたりして、小道具さんや大道具さん、照明さんに気を使って、盛り上げて。“ワンチーム”じゃないですけど、そう持っていこうとしている。ドラマは“虚”だけど、“虚”と“実”の狭間(はざま)を感じました。本番じゃないときも“実”の部分で(みんなを)引っ張っていましたね」と感嘆する。
 
 音役の二階堂さんについても「(2014年公開の)『私の男』という映画で魔性の女ぶりが見事だったんです。その映画を思わせるような芸達者ぶりが出ていましたね」と称賛。「奥さんの役で、自分がはちきれるところがあるんですが、はちきれすぎて監督からストップがかかっていました。すごすぎて『もうちょっと抑えましょうか』と……」と振り返る。

 「下町ロケット」に朝ドラにと話題作への出演が続く古舘さん。出演作で強烈な印象を残しているが、「『下町ロケット』以降、一つも(オファーが)来なかったんですよ!」と笑いながら嘆き、「見てくれた人も多かったけど、『こいつ芝居いけるな』と来るかなと思ったけど、来なかった。だから今回、話が来たときに無条件で『やる』と言いました」と冗談めかして語る。

 今回の出演を経て、改めて役者業への思いを聞くと、今後は“悪いやつ”役で映画に出演したいと意気込む。「65歳になりますと、“終活”ですからね。死ぬまでしゃべっていたいという意欲は満々ですけど、年齢的には終活みたいなところもある。そう考えたら、やっぱり『映画の一つもやっておきたい』みたいな欲があって。僕の場合は『せりふは語りだ』ということがちょっと分かってきたので。もう一発、(オファーが)来てほしい」と、役者業に意欲をみせていた。

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