マイケル・チャン:自身最後のグランドスラム「全米オープン」を語る

マイケル・チャン選手(写真:AP/アフロ)
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マイケル・チャン選手(写真:AP/アフロ)

 米ニューヨークで27日(現地時間)、シーズン最後のテニス4大大会(グランドスラム)「全米オープンテニス」が開幕する。この大会の模様は昨年に引き続き、WOWOWで9月10日まで連日生中継される。89年にグランドスラムでの最年少優勝を果たし、現役時代はベースライン上での粘り強いフットワークを武器に長年世界のトップで戦い続けて03年の全米オープンで現役を退いたマイケル・チャン選手に、全米オープンや、昨年「東日本大震災復興チャリティ ドリームテニスARIAKE」で対戦した錦織圭選手などについて聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−現役最後の大会に全米オープンを選んだのはなぜですか?

 私のキャリアをスタートさせた大会だったからです。私が最初にプレーしたグランドスラムで15歳の時にアマチュアとして出場しました。私が17回も出場した唯一の大会でしたし、出場したどの大会よりも、一番たくさんプレーした大会でしたので、デビューした大会で引退するのがいいと思いました。アメリカ人ですし、母国で行われるグランドスラム大会で引退できるのは、とても特別なことだと思います。

 −−全米ファンへ感謝の気持ちを伝えた03年の大会について、もう一度教えてもらえますか?

 試合に敗れたあとに、全米テニス協会が引退式を行ってくれました。そこで観客に引退することを報告し、長年ニューヨークで見続けてくれたたくさんの人に感謝の意を伝えることができました。本当に格別でした。それまでの現役生活、そして家族に本当に感謝しましたし、テニスの才能を与えてくれた神様にも感謝しました。そんな機会を設けてもらえて最高でした。そうしようとする選手はたくさんいないと思いますが、ファンに敬意を表し、自分の気持ちを理解してもらうのはいいことだと思います。

 −−引退式の時に、観客から大きな拍手をもらっていましたが、どう感じましたか?

 とてもうれしかったです。観客のみなさんがあんな態度を示してくれて、とてもうれしかったです。長い間全米オープンで、応援し励ましてくれたことへの感謝の気持ちを伝えることができてよかったです。全米には17回も出場しました。だから私や家族、私のチームにとってはすばらしい瞬間でした。ずっと私の記憶に残るでしょう。

 −−全米オープンに初出場した時のことを覚えていますか?

 覚えています。大変興奮しました。87年の全米オープンに主催者推薦で15歳の時に出場しました。18歳以下の全国大会で優勝したのですが、その大会は優勝したら全米オープンに主催者推薦で出られることになっていたのです。そして1回戦でポール・マクナミーに勝ちました。経験のあるオーストラリアのとてもいい選手でしたが、第4セットで勝つことができました。2回戦はナイジェリアのエンドゥカ・オディゾールに接戦の末に敗れました。初めて見るプレースタイルでしたので、最初の2セットはあっけなくやられました。その後落ち着きを取り戻し、続く第3、第4セットを奪い返しました。第5セットも勝てるチャンスはありましたが、一歩及びませんでした。でもそんな若い時に全米オープンでプレーできたのは、すばらしい経験でした。

 −−アジア系アメリカ人として育ったことはどういう意味がありますか?

 とても面白いものでした。なぜなら当時は、アジア系アメリカ人のテニス選手はほとんどいなかったからです。ジュニアの選手としては4、5人いたうちの1人でしたし、メーンツアーに参戦しているアジア人選手は私が知る限りいませんでした。もちろん、今は違います。アジア人選手もいますし、中にはとても活躍している選手もいるので見ていて頼もしいです。でも私は自分がアジア系の選手だということについてはあまり気にしていませんでした。テニスは自分が好きで、うまくなりたい楽しいスポーツだとしか思っていませんでした。

 −−小柄でも他のアメリカ人やヨーロッパ人選手のような大きな選手を倒せることができると証明できたと思いますか?

 よかったのは、自分よりも大きくて力強い相手とはそれまでもずっと戦っていたことです。ジュニアの時は背も高く力の強い兄のカールと、ほぼ毎日練習をしていました。むしろ自分より小さいか同じくらいの相手と戦う方が、大きくて背の高い選手と戦うよりもやりづらく感じたくらいです。大きな相手と対戦するのには慣れていたのです。そのおかげで相手が誰であろうと、どんなに有名であろうと、どんなに強かろうと、おじけづいたり恐れたりすることはありませんでした。テニスコートでは誰が対戦相手でも、おじけづくことはなかったですね。

 −−アジア人は小柄な人が多いですが、小柄なあなたがグランドスラムに優勝したことでアジア人は勇気づけられたでしょうか?

 私は必ずしもアジア人がみんな小柄だとは思っていませんが、体が小さくても、私が活躍していることを見て自信をもった選手もいたとは思います。例えば、松岡修三はたぶん190センチくらいあるでしょうし、錦織圭もそんなに小柄ではありません。ほかにも背が高くて力強いアジアの選手もいますし、私はたまたま小さかったのだと思います。要は自分にある才能を生かせばいいのです。私は少し小さいですが、コート上で少し早く動けます。大きい選手にはパワーで劣りますが、問題ありませんでした。

 −−錦織圭選手にはどんな印象がありますか? テニス選手としての彼のよさを教えてください。

 実際に去年の11月に彼と対戦したことがあります。有明コロシアムで満員の観客の前で彼と対戦したのは本当に楽しい体験でした。彼は間違いなくツアーを担うこれからの選手の一人です。トップ選手にたくさん勝ち始めていますし、有名になってきました。彼の身体能力やテニス選手としての才能はこれからますます知られるようになっていくでしょう。彼が自分自身や自分のプレーに本当に自信を持っているかどうかは分かりませんが、自信がプレーにもっと表れるようになれば、彼はもう一段レベルアップするはずです。圭はランキングの低い選手相手には問題なく勝てます。大切なのは自分を信じることです。最高の選手に勝てる、しかも大きな試合でも倒せると信じることです。

 −−錦織選手は世界ランク1位になれるでしょうか?

 彼には世界トップ10に入れるだけのポテンシャルがあります。しかし現段階で彼が世界ランク1位になれるかについて話すのは時期尚早だと思います。もっといい試合をする必要がありますし、グランドスラムでさらに上位での試合経験が必要だと思います。今、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチ、アンディ・マリーの4人はほかの選手よりも群を抜いています。グランドスラムを見れば、それは明らかです。ここのところのグランドスラムで彼らがどれくらい優勝しているか調べてみたら、彼ら以外は1人か2人くらいしかいないはずです。現在は彼らがそれくらい圧倒しているのです。彼らの牙城を切り崩すのは大変です。でも不可能なことでもありません。圭にもその可能性が十分にあります。今後彼はとても成長するでしょうから、そうなるのを待ちましょう。

 −−あなたにとってのフラッシングメドウ・パーク(全米オープンの会場)とは?

 アメリカ人の私にとって、全米オープンは母国のグランドスラムです。また、北アメリカで行われる大会で唯一私が優勝していない大会です。何度も惜しいところまで行きましたが、あと一歩届きませんでした。ですが、ニューヨークには家族もいますし、私にとっては素晴らしい大会でした。楽しく試合ができただけでなく家族とも楽しい時間を過ごせました。アメリカ人にとって全米オープンでプレーするのは明らかに特別なことです。観客の後押しも得られますし、特にナイターはそうです。深夜0時とか1時にまでずれ込むこともあります。私もジョン・マッケンローと確か1991年に対戦した時に、試合が終わったのは深夜2時でした。しかし、みんな会場に残って見てくれていました。それこそ全米オープンならではなのです。ほかのグランドスラムならあり得ません。

 *……全米オープンテニスの様子は、27日~9月10日に「WOWOWライブ」で連日生中継。初日は無料放送で、「WOWOWプライム」でも放送する。ほかに、今大会の見どころなどを取り上げた「無料放送!全米オープンテニス開幕直前スペシャル!」(26日午後6時半、WOWOWプライム)、マイケル・チャン選手ら伝説的選手たちの引き際にスポットを当てたドキュメンタリー「伝説の引退スペシャル 世界編」(10月13日午後8時、WOWOWプライム)などを放送。

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