神木隆之介:主人公の「人に何をいわれようと貫くところ」に共感 「桐島、部活やめるってよ」主演

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 第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウさんの小説「桐島、部活やめるってよ」が、「パーマネント野ばら」(10年)や「クヒオ大佐」(09年)などで知られる吉田大八監督によって映画化され、11日から全国で公開される。この作品は、高校2年生のバレーボール部の“スター”桐島が、突然、部をやめるというニュースが校内に広がる。そのニュースに振り回されるクラスメートやバレーボール部員たちの姿を、桐島不在のまま描くことで、彼らの人間関係や高校生特有の心のひだを見せていく青春映画だ。同じ場面を登場人物それぞれの視点から繰り返し描くという、このジャンルの作品では珍しい手法も見どころの一つ。今作で映画部に所属する主人公、前田涼也を演じた神木隆之介さんに役どころや撮影中のエピソードなどについて聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 神木さんが演じる前田は、クラスでは目立たないおとなしい青年。しかし、ひとたび8ミリカメラを握ると生き生きし出し、仲間たちとの新作の撮影に余念がない。そんな前田のことを神木さんは「登場人物の中では、内に秘めた情熱や勇気、根性が一番あるヤツじゃないかと思う」と分析する。また、小学生のとき、周囲が赤や黒のランドセルの中で自分だけは茶色を選んだ思い出を語りながら、「こだわりがあって、人に何をいわれようと僕はこれですと貫くところ」を自身と前田との共通点に挙げた。

 前田は、中学時代からの同級生で、バドミントン部に所属する東原かすみ(橋本愛さん)にほのかな思いを寄せている。彼はそれを大っぴらに表現することはしないが、あえて隠そうともしない。日曜日、かすみと偶然映画館で会ったときには、積極的に話しかけもする。しかし、かすみは携帯電話をいじるのに忙しく、前田との会話は上の空。普通なら傷つくところだが、神木さんは「前田には残酷じゃないんです。携帯をやっていようが関係ない。とりあえず彼女とかかわれたことがうれしいんです」と解説。その感情を表現するために、神木さんはそのシーンでペットボトルのジュースを一気飲みした。吉田監督から指示があったわけではないが、「勢いで飲みました。人ってうれしくなると、なんでもできるような気になりますよね。だから前田もうれしさのあまり一気に飲むというお芝居をしてみました」と説明する。

 今作には、バレーボール部やバドミントン部といった運動部に所属する生徒と、映画部の前田や、大後寿々花さん演じる吹奏楽部の沢島亜矢といった文化部に所属する生徒、そしていずれにも属さない帰宅部の生徒の3種類が登場する。彼らには、互いに越えてはいけない境界線があり、女子同士の間にも微妙な空気が漂っている。そうした「関係性の難しさや暗黙のルール」は、神木さん自身、高校生活で体験済みだ。また「学校という閉鎖的な空間で毎日同じようなサイクルで生活していると、自分は何がしたいんだろう、何に向かって歩いているんだろうと、自分を見つめ直す瞬間が必ず来ます。しかも唐突に」。そういう“高校生特有の葛藤”にも、神木さんは共感したという。

 その文化部、運動部、帰宅部の生徒たちが、学校の屋上で一堂に会するクライマックスシーンは原作にはない描写で、まさに神木さんが「無意識の革命」と表するにふさわしく、「物語の流れが一気に変わるところ」だ。それも「早く、激しく」。その光景を見届けた観客の心には、ある種のカタルシスが訪れるはずだ。神木さんはそんな今作を、「今、学生の方も、学生時代を終えた方も、どの年代の方が見てくださっても新しいことに気づけたり、懐かしむことができる映画だと思います」とアピール。そして、「素晴らしい映画ですし、(スタッフ、キャストの)みんなの自信作なので、たくさんの方に見ていただきたいです」とメッセージを送った。

 3月に高校を卒業した。今後は役者という本当の夢に向かってまい進していくわけだが、その前に「きちんとした人間になりたい」と話す。「人柄だったり、考え方だったり、精神的な強さだったり。そういう“土台”をきちんと作ってからでなければ、お芝居は強化できないと思っています」。だからこそ、19歳の今年は「いろいろなことに挑戦して、その経験を、仕事の部分にも人間的な部分にも、どんどん積み重ねていきたい」と考えている。ちなみに、歴史上の人物などで尊敬している人はいるかとたずねたところ、「そういうことは、これまで考えたことがなかったなあ」と思案しながら、「毎日何事にも感謝して生きなさいというのが“神木家の教訓”なので、誰からも愛される人間になりたいです」と前向きに答えた。映画は11日から全国で公開。

 <プロフィル>

 93年、埼玉県出身。99年、ドラマ「グッドニュース」でデビュー。その後、「あいくるしい」(05年)、「赤鼻のセンセイ」(09年)、「SPEC」(10年)、「高校生レストラン」「11人もいる!」(ともに11年)などに出演。映画は「妖怪大戦争」(05年)、「遠くの空に消えた」(07年)、「劇場版SPEC~天~」(12年)など。また、アニメーションの吹き替えでも活躍。作品に「サマーウォーズ」(09年)、「借りぐらしのアリエッティ」(10年)などがある。

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