ナイン・ソウルズ:豊田監督&松田龍平インタビュー「芳雄さんが教えてくれた」

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 7月19日に一周忌を迎える故・原田芳雄さんの主演映画「ナイン・ソウルズ」が、9年ぶりに東京・渋谷のユーロスペースで再上映されている。原田さんの存在の大きさを改めて実感するという豊田利晃監督と、本作で共演し原田さんを「特別な存在」という松田龍平さんに、撮影当時の原田さんとの思い出や作品の見どころなどを聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「ナイン・ソウルズ」は、刑務所からの脱走に成功した9人の男たちを描いた物語。さまざまな思いを抱えながらも、1台の車に同乗し、大金が隠されているという富士山のふもとの小学校を目指す9人。旅を続けるうちに彼らは、生まれて初めて連帯感、充足感、生きることへの希望を感じ始めていた。そして、捕らわれる前に失ったものを取り戻し、やり残したことへ決着をつけることを心に誓うが……という内容。原田さん、松田さん、千原浩史(千原ジュニア)さん、鬼丸さん、板尾創路さん、KEE(渋川清彦さん)、マメ山田さん、鈴木卓爾さん、大楽源太(市鏡赫)さんといった個性的な俳優が9人の脱獄犯を演じている。

 ◇原田さんからの教えがターニングポイントに

 原田さんは、息子殺しの罪で服役し、父親としての役目を果たそうと心に秘めながら、脱走犯のリーダーとなる長谷川虎吉役。9人中、一番年下で、父親を殺害した少年・金子未散を演じた松田さんは、役柄も含めて、原田さんに「父親のようなものを感じていた」という。89年に亡くなった父・俳優の松田優作さんと親しかったこともあり、原田さんは松田さんにとって「特別な存在」であり、心の中では「もっと話したい」と望んでいたものの、撮影当時は思うようにコミュニケーションがとれなかったという。

 「特別なものは感じていたけど、そのころ俺は10代で若かったから、『バカな自分を露呈したくない』って気持ちがあって。話したいけど、どう話をしたらいいかわからないっていう。でも、その後、芳雄さんの家に遊びに行ったときに、自分の思っていること……例えば、おかしいと思っていることや情熱みたいなものを『しっかりぶつけないといけない』って話をしてくれて」

 松田さんはそれがきっかけで、俳優同士が「現場以外でも、日常的にプライベートな空間で話をたくさんしたほうがいいんだなって思うようになって。それは大きかったですね。お互い思っているものをぶつけて、それでけんかになったり共感できたりすることは楽しいなって」と考えるようになった。それ以来、原田さんともさまざまな話をするようになり、役者としても大きな転機になったという。豊田監督も「芳雄さん、人がいいんでみんなウエルカムなんですよ。芳雄さんの家に毎年何百人も集まってて……そういう意味でも寂しいですよね」と語り、原田さんという存在の大きさをあらためて語る。

 ◇原田VS松田 「泥だらけのけんか」シーンの裏側

 そんな原田さんとの、当時の印象的な撮影エピソードを聞くと、豊田監督は「田んぼで泥だらけで、芳雄さんと龍平がけんかするシーン」といい、「あんなに泥だらけになるとは思ってなかったんですよ。最初は白い服だったのに真っ黒になって。僕が現場で爆笑してたら、それを見た芳雄さんが『豊田、いつか殺す!』って(笑い)。すげえうれしかったです。『田んぼの水飲んだ』とも言ってました」と笑いながら明かすと、松田さんは「(原田さんから)けっこう怒られたな。『本気でやりすぎだよ、芝居なんだから』って」と懐かしそうに話した。

 また、豊田監督は「龍平が酔っぱらってるシーンがおもしろかったな」とも振り返り、「今回、見返したらすごくよかった」と松田さんに語ると、松田さんは「すんげぇ、つらかった」と苦笑。「(当時は)酒を飲まないのに、酔っぱらってるふりしなくちゃいけなくて。で、せりふでおどけてみせるんですけど、びっくりするぐらい共演者がしらーっとした顔で見てて。それが10代の俺の胸に刺さった」と初々しいエピソードも明かされた。

 ◇夢枕に立った亡き父・松田優作からの“喝”

 今回の再上映の初日舞台あいさつでは、豊田監督が「昨日、芳雄さんが夢に出てきた」という不思議なエピソードを披露。その話を引き合いに、松田さんにも同様の経験はないかとたずねると、意外な答えが返ってきた。「俺そういうこと全然ないんですよ、夢をまったく覚えてないから(笑い)。……でも、1回だけ見たんだよね、おやじは。ずいぶん前で、デビューしたときぐらいのことだから、恥ずかしいけどね」としきりにテレながら、そのときの夢をこう語った。

 「波がザッパーンッてなってる断崖絶壁に、真っ赤な鳥居が一つだけ立ってて。そこを俺が歩いてると、すごく遠くから“喝”って漢字が飛んできて鳥居をくぐってバーンって俺に当たって。その瞬間、起きたら、目がチカチカしちゃって。バチバチッみたいな。おやじが出てくるわけではないんだけど、怒られたみたいな(笑い)」

 姿形ではなく、そこに父の存在を感じたという松田さんは、話し終えた後、「……って、恥ずかしいんですけど。夢ってよくわかんないなって話なんですけどね」と笑いつつも、「思い込みって言ったらそれまでなんだけど、どっか意味があったんだなと思ったほうが楽しいし」と語ると、豊田監督も「いい話だね」とうなずいた。

 ◇2人は黒沢明と三船敏郎のような関係

 9年前の本作について、2人は今どのように感じているのだろうか−−。豊田監督は「当時は、バブルが終わってしばらくたって『金をもうけるのが一番偉いんだ』っていう考えがもうダメだってわかってきたころで。『ナイン・ソウルズ』では、それをせりふやストーリーで明確に打ち出してるんですよ。で、昨年の3月11日に起きた原発の問題で、さらにそれが社会に露呈して。だからこそ今、再上映する理由だと思いますし、胸に響くと思います」と魅力を語る。一方、松田さんは当時の自分を振り返って「たぶん、今と違う自分がいるっていう感じで、すごく客観的に別の役者さんが演じているように見れるのかな」と話す。

 そして今年、2人は「ナイン・ソウルズ」以来、久しぶりに「I’M FLASH!」(9月1日公開)でタッグを組んでいる。豊田監督は、9年たっての松田さんの変化を「映画に対する取り組み方がもっとストレートになってきたんで、さらにやりやすくなった」と話し、松田さんは「昔からいいものを作りたいっていう気持ちは変わらないんですけど、その言葉に責任を持つことがちょっとずつできるようになってきたのかな、と。昔は経験がないから、責任が持てないというか……思ってたとしても、これは自分がやっていいものかダメなのか判断できなかったんですけど」と語る。

 松田さんにとって「I’M FLASH!」は、02年の「青い春」を含め豊田監督と組んだ3作目。「最初に仕事をしたときは俺はまだ18歳でガキだったし、一緒に映画を作るってことがなかったら年が離れているからフワフワした関係性だったと思うんですけど、今だったら別にそれがなくても話せる関係というか」と松田さんは関係性の変化を語る。豊田監督は、2人を「たぶん、黒澤明と三船敏郎みたいな関係だと思ってるんですよね」と例え、「もっと2人のコンビでやりたいですからね、本当は」と松田さんにラブコールを送り、次回作にも意欲を示していた。

 「ナイン・ソウルズ」は、20日まで東京・渋谷のユーロスペースで再上映中。原田さんの一周忌である19日には、追悼イベントも開催される予定。その後、8月4日から愛知・伏見ミリオン座で、8月25日から大阪・シネ・リーブル梅田で、9月15日から京都・京都みなみ会館で上映予定。

 <豊田利晃監督のプロフィル>

 とよだ・としあき。69年大阪府出身。将棋の奨励会に9~17歳まで所属した体験をもとに91年、阪本順治監督の映画「王手」で脚本家として映画界に登場。その後、演劇台本や劇画の原作などを手がけ、98年に「ポルノスター」で映画監督デビュー。同年の「日本映画監督協会新人賞」、99年「みちのく国際ミステリー映画祭 新人監督奨励賞」を受賞する。以降、「青い春」や「ナイン・ソウルズ」「空中庭園」などを監督。今年は、「I’M FLASH!」のほか、瑛太さんを主演に迎えた「モンスターズクラブ」が現在公開中。

 <松田龍平さんのプロフィル>

 まつだ・りゅうへい。83年東京都出身。99年に大島渚監督の映画「御法度」で俳優デビューし、「ブルーリボン賞」「毎日映画コンクール スポニチグランプリ」「日本アカデミー賞」など、数々の新人賞を総なめにし、注目を集める。以後、舞台やドラマに活動の幅を広げながらも映画を中心に活躍し、代表作に「青い春」「恋の門」「46億年の恋」「蟹工船」などがある。11年に「まほろ駅前多田便利軒」に瑛太さんとともに主演し、その続編が13年1月からドラマ「まほろ駅前番外地」(テレビ東京)として放送される。

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