ドライヴ:ニコラス・ウィンディング・レフン監督に聞く「僕は僕を楽しませるために映画を作る」

1 / 3

 11年のカンヌ国際映画祭で監督賞に輝いた「ドライヴ」は、スリリングでクールで、とかく出品作が難解というイメージのカンヌにあって異色の作品だ(ちなみにこの年の最高賞パルムドールに輝いたのは、テレンス・マリック監督作「ツリー・オブ・ライフ」)。ニコラス・ウィンディング・レフン監督が、新作「Only God Forgives」のクランクイン直前の1月に来日、インタビューに応じた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 映画「ドライヴ」は、昼間は自動車修理工場で働くスタントマンが主人公。その男“ドライバー”は、希有(けう)なドライビングテクニックを持つことから、強盗の逃走も請け負っていた。彼が同じアパートに住む人妻アイリーンに心を奪われたことで、裏社会の抗争に巻き込まれていくというクライム・サスペンスだ。ドライバーを「ブルーバレンタイン」(10年)や「スーパー・チューズデー 正義を売った日」(11年)のライアン・ゴズリングさん、アイリーンを「17歳の肖像」(09年)や「SHAME シェイム」(11年)のキャリー・マリガンさんが演じている。

 実は、今作を製作する前、レフン監督は別のハリウッド映画に取り掛かろうとしていた。ところが、主演俳優が筋書きに異論を唱え、それに納得できなかったレフンさんは監督を降板。その直後、ゴズリングさんからレフン監督に「一緒に映画を作らないか」と提案したことで今作が生まれた。ゴズリングさんといえば、これまでどちらかというと“繊細な役が似合う俳優”というイメージで、今回のようなバイオレンス性を秘めた役とは結びつきにくかった。その点、レフン監督は「誰の場合もそうですが、一緒に過ごしているうちに居心地のいい空間というものが生まれてくる。そのときこそ、その人の本質が感じられるものなのです。僕はそこに、ライアンが持つ静けさを感じ取った。彼にこの役を演じられることに疑いはなかった」と、ゴズリングさん起用理由を明かした。

 日本では、レフン監督の名前はあまり知られていないが、これまで「プッシャー/麻薬密売人」(96年)をはじめとする7本の映画を製作しており、いずれも欧米では高く評価され、母国デンマークでは、同郷のラース・フォン・トリアー監督以来、最大の成功を収めた映画監督といわれている。そのレフン監督の持論は「映像作家は1本ごとに違うものを作るべきだ」。それについて、「われわれが暮らす社会は、良くも悪くも完璧を目指す傾向にあります。でもそれは、創造性の観点からすると宿敵たる考え方。以前とは違う方向性のものを作り、もしかしたらその出来は前作より劣るかもしれない。でもそれでいい。進化していくことが大事なのであり、肝心なのは、自分のスタイルや美学を貫く姿勢。そうでないと、安全な方向ばかりに目が向き、それがまた創造性の宿敵になるのです」と言い切る。

 そんなレフン監督が、観客を楽しませるために心掛けていることは「唯一、自分が見せたい客に面白いと思ってもらえること」。自分が見せたい客とは、つまり「自分」。「観客が気に入りそうなことをいちいち考えていると映画は作れないし、そういう思いで作った作品というのは、観客も見透かしてしまう。だから僕は、僕を楽しませるために映画を作っているのです」と話す。

 尊敬する映画監督はたくさんいるといい、逡巡(しゅんじゅん)しながら挙げたのは、スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、オーソン・ウェルズの3監督。そして意外にも、マイケル・ベイ監督の名も挙がった。その理由を「作品がみな似通ってしまっている今の映画界にあって、自分を貫くことは難しい。だけどベイ監督の作品には、間違いなく、彼の作品といえる“ベイ印”がついている。それは、映画監督として素晴らしいこと。だから僕は、監督としてリスペクトしているのです」と説明し、ハリウッドのヒットメーカーをたたえた。

 レフン監督の父は、映像業界に身を置く編集マン。そんな境遇については「日々感謝している」と話す。そして「やりたいことをやらせてくれる妻の存在も大きい」とも。その、セラピストをしている奥様への感謝の言葉が、インタビュー中しばしば語られた。本作に出演のマリガンさんも、奥様と雰囲気が似ているのだという。そこで、ラブストーリーとしての側面も持つ今作は、実は奥様へのラブレターなのでは?と聞くと、「意識下では」と照れ笑いしながらの控えめに答えた。映画を愛し、妻も愛す。しかし体制にはこびない。肝の据わった性格だからこそ、今作が作れたのだと納得した。映画「ドライヴ」は新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開中。

 <プロフィル>

 1970年デンマーク生まれ。8~17歳にNYに在住。93年再渡米。アメリカン・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツで学び、96年に「プッシャー」でデビュー。デンマークに帰国後、「Pusher2」(04年)、「Pusher3」(05年)を監督し、「プッシャー3部作」を完成させた。ほかに「Bronson」(08年)、「ヴァルハラ・ライジング」(09年)などがある。また、07年にはテレビムービー「アガサ・クリスティー ミス・マープル3 復讐の女神」を手掛けた。次回作は、ライアン・ゴズリングさんを再び主役に起用する「Only God Forgives」。

写真を見る全 3 枚

映画 最新記事