はじめの1巻:「ゴロンドリーナ」 「闘牛の作品が描きたい!」作者の熱意がマンガに

えすとえむさんのマンガ「ゴロンドリーナ」(小学館)1巻の表紙
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えすとえむさんのマンガ「ゴロンドリーナ」(小学館)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、月刊マンガ誌「IKKI」で連載、ある理由から闘牛士を目指す少女の物語を描いた「えすとえむ」さんのマンガ「Golondrina(ゴロンドリーナ)」です。

ウナギノボリ

 同性の恋人に裏切られた少女チカは、ある雨の夜、死のうとして車道に立っていたところを見知らぬ中年男性に助けられる。「殺して」と頼むチカに、男性は「考えてやらないこともない」と答え、自宅へ連れ帰るが、翌朝、ボーイッシュな風ぼうのチカが女だと分かり家に帰そうとする。しかし、恋人が悲しみ、後悔する方法で死にたかったというチカは「男だったら闘牛士にしてやろうかと思った」という男性の言葉に、「闘牛士になって、闘牛場で死ぬ」と決意する。

 ◇編集部からのメッセージ IKKI編集部 「スペイン取材で作者の熱意目の当たりに」

 「とにかく闘牛についての作品が描きたい!」……初対面でそう言い放った「えすとえむ」氏。すでに数々のBL作品で注目されていたころのことで、あまりの熱意に少々面食らったのも事実です。

  しかし、その熱意を本当に目の当たりにしたのは、連載開始直後に取材で訪れたスペインで、でした。お目当ての闘牛士が姿を現すと、通常の3倍の速さで接触を試みるえすと氏。競技中は闘牛初心者である担当の質問も耳に入らないのか、すっぱり無視するえすと氏。そして、海外旅行が大嫌いな担当を置き去りに、ひとり闘牛場の中へと消えてしまうえすと氏……。まあ、一部(!)は冗談としても、闘牛への情熱が並々ならぬものであることは疑いありません。もちろん、情熱があることと、それをマンガに描けることはイコールではありません。それを理解しているからこそ、毎回の打ち合わせも実際の執筆も、非常に苦しみながら、まさに“闘っている”わけです。

 単行本第1集の段階では、主人公の女の子チカがまだ闘牛士を目指し始めたばかりですが、彼女の成長、活躍はもちろん、闘牛という競技や闘牛士という存在そのものについても深く切り込んでいただきたいと思っています。応援よろしくお願いします!

 ◇書店員の推薦文 伊吉書院類家店 中村深雪さん 「鋭い心理描写、赤が見えるような表現力」

 闘牛とは牛をかわすのではなく、闘牛士が牛の動きを操るという、相手を理解していなければできないものであると知りました。闘牛場で1人で死ぬことをゴールに走り出したチカの道は、実は相手を深く理解し共に生きていくという“闘い”への道だと思うので。闘牛士に必要だという、度胸、運はすでに持っているチカ。あとは確実な技術、そして死ぬ覚悟ではなく生き延びること、その意味を徐々に理解していくのでしょう。鋭い心理描写に、白黒の画面の中に鮮やかな赤が見えるような絵の表現力。美しい物語です。

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