クラユカバ/クラメルカガリ:塚原重義監督の初の長編アニメ 構想10年で紆余曲折も

「クラユカバ」「クラメルカガリ」のビジュアル(c)塚原重義/クラガリ映畫協會
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「クラユカバ」「クラメルカガリ」のビジュアル(c)塚原重義/クラガリ映畫協會

 アニメ「端ノ向フ」やバンド「SEKAI NO OWARI」のライブ演出アニメなどを手がけてきた塚原重義監督のオリジナルアニメ「クラユカバ」「クラメルカガリ」が2作の劇場版アニメとして4月12日に同時公開される。「クラユカバ」は、自主制作でアニメを制作してきた塚原監督にとって初の長編アニメで、構想から約10年たち、紆余曲折があり、ついに公開されることになった。「クラメルカガリ」は、人気ライトノベル「デュラララ!!」などの成田良悟さんが手掛けた「クラユカバ」のスピンオフ小説を原案としている。塚原監督に、初の長編アニメの制作の裏側を聞いた。

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 ◇自主制作の限界

 塚原監督は1981年生まれ。2002年頃、大学生時代に短編アニメの自主制作を始める。独特のレトロな世界観のアニメが魅力で、2005年頃まで発表していた初期の名作「甲鉄傳紀」シリーズから「クラユカバ」「クラメルカガリ」まで通底しているようにも見える。デジタルで制作しているがアナログ的な温かみもある。

 「『甲鉄傳紀』は学生の頃に作っていたもので、そこまで深く考えていなくて、好きな要素を詰め込み、教科書に落書きするみたいな感覚で作っていました。最初からデジタルでアニメを作っていて、当時のデジタル的な表現に飽きていたところもあり、アナログ的な表現を追求しようとしてきました。まだまだですが。その世界観に強度を持たせようとして作ったのが『端ノ向フ』です」

 「端ノ向フ」は、第11回インディーズアニメフェスタで大賞に選ばれるなど話題になった。同作が長編アニメを制作するきっかけにもなった。

 「『端ノ向フ』は当時できることを全部やりきった。見る人がどう感じるのか? 作家として何をするのか?をきちんと考えた作品でもあります。自主制作、少人数でやれることはもうないとは思ったのですが、やりたいことはまだまだありました。もっと長い尺で作ってみたかったし、それは商業作品としてやるしかないと考えていました。短編は遊びがないんです。コンセプトがあり、それを忠実に作りきります。落語で言うくすぐりのようなものがもっとあってもいいですし、やっぱり長い尺で作ってみたくなった。それには、商業でなければ難しい。自主制作では声を掛けづらい人とも仕事がしてみたかったですし。結局として10年掛かっているので、自主制作でも10年やったらできたかもしれませんが」

 「端ノ向フ」を作る中で限界を感じるところもあった。

 「貯金も使い果たしてしまい、死ぬかと思ったこともありました。制作中、終盤は仕事も全部断っていたので、ギリギリでした。終わった後にすぐ仕事をしても振り込みは翌々月とかですしね。完成した後、イベントで自分が焼いたDVDを販売して、売れたので、助かったのですが」

 ◇一か八かのクラウドファンディング

 「クラユカバ」は、2023年ファンタジア国際映画祭長編アニメーション部門で観客賞・金賞に選ばれるなど話題になっている。2018年にクラウドファンディングを実施し、パイロット版の「クラユカバ パイロットフィルム」を制作。2020年に第2回クラウドファンディングを実施し、2回のクラウドファンディングで累計約1570万円の支援を受け、長編アニメを制作することになる……と紆余曲折があったという。

 「構想から10年たったのですが、企画が通るまでに時間がかかりました。企画をして、自分で持ち込みをして、最終的にはクラウドファンディングに頼ることになり、7年くらい掛かりました。ほかの仕事をしていたので。一か八かで、これがダメだったら……という思いでした。それから3年半くらいで制作したのですが、これまで手が届かなかったところまで作り込むことができるようになったことがうれしかったです。例えば、自主制作の頃は、背景の枚数を絞ることもあったのですが、やりたかったことができるようになりました。素晴らしいスタッフの方々が集まってくれたからできたことです」

 商業作品ではあるが“自主制作魂”も込めて制作した。

 「今はスタッフを集めるのが大変ですし、SNSで募集したこともあったので、実はアニメ初経験という人も結構多いんです。『クラユカバ』は、インディーズと商業のハーフ、『クラメルカガリ』は35%くらいがインディーズというイメージです。インディーズ的に集まったチームで商業的に作ったのが『クラユカバ』で、チームとして進化、発展したのが『クラメルカガリ』です。インディーズだからできるやり方を商業でもやっています。一人で複数のパートを担当するところはインディーズの頃から変わっていません。コアメンバーは40人くらいで、それぞれが得意なことが分かってきたので、『クラメルカガリ』はそれを最大限に発揮しようとしました。アニメ映画としては、スタッフが少ない方だとは思うのですが」

 ◇独特のイメージの源泉

 塚原監督の作品は、先述のように独特なレトロな世界観が魅力となっている。大正、昭和のような懐かしさもあるが、描かれているのは“どこでもない場所”だ。

 「一言で説明するのが難しいのですが、パッチワークですね。僕が好きなものを集めています。東京の下町で古いものに囲まれて育ち、父の影響で昭和30年代の邦画が好きだったので、その影響も大きいです。自分自身が生まれ育った町の歴史などを調べていくうちに、東京大空襲の前の、近くて遠い世界に興味を持つようになったんです。当時の写真を見ると、道路の形状は一緒だけど建物が違う。そこに異世界感を感じたんです。どこかで見たことがあるようで、そこでもない世界で、実在のものをモチーフにしようとしました。実在のものは解像度が高いですし、パッチワークで作っていくことで、解像度の高い世界を構築していこうとしています」

 独特ではあるがポップでもある。

 「基本はポップでありたいと思っています。キャラクターもなるべく可愛くして、渋くなりすぎないようにしようとしています。可愛いものも好きですしね」

 「クラユカバ」「クラメルカガリ」の公開が近付き、「ここまで長かったですね。この3年くらいは怒涛でした。短距離スタイルで長距離を走ったようでした。短編の作り方が抜けきれていないのかもしれません。今回のテーマではやりきりました」と語る塚原監督。

 「映画を作ることが楽しかったですし、せっかくこのチームができて、このチームであればまだまだできることもあるはずなので、挑戦していきたいです」とも話しており、今後の活動も注目される。

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