BLUE GIANT:なぜマンガから音が聞こえるのか? アニメで説得力のある音楽に 原作者・石塚真一に聞く

「BLUE GIANT」の作者の石塚真一さん
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「BLUE GIANT」の作者の石塚真一さん

 「岳」などで知られる石塚真一さんのジャズをテーマにしたマンガが原作の劇場版アニメ「BLUE GIANT」が2月17日に公開される。原作の「BLUE GIANT」は不思議なマンガだ。マンガだから当然、音は鳴らないのだが、読んでいると、キャラクターの演奏が聞こえてくるようにも感じる。アニメでは、主人公のサックスプレーヤーの宮本大の大迫力の演奏がリアルに聞こえてくる。石塚さんに原作の“音の表現”、アニメについて聞いた。

ウナギノボリ

 ◇人を描くから音が聞こえる

 「BLUE GIANT」は、ジャズの魅力にとりつかれた宮本大が、世界一のジャズプレーヤーを目指す姿を描いている。2013年に「ビッグコミック」(小学館)で連載をスタートした。2016~20年にヨーロッパ編「BLUE GIANT SUPREME」が連載され、2020年からのアメリカ編「BLUE GIANT EXPLORER」が連載中。2017年に「第62回『小学館漫画賞』」(一般向け部門)、「第20回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門大賞を受賞した。コミックスの累計発行部数は920万部以上。

 「何で音が聞こえるの?」 いきなりではあるが、石塚さんに疑問をぶつけてみた。

 「読者の方が脳内で音を鳴らしてくれるんです。ありがたい話です。みんなそれぞれにいろいろな音が鳴っていると思います。登場人物たちに感情があり、感情、気持ちがあった上でステージに立って音を奏でます。読者の方は、その感情に合わせた音を鳴らしてくれているんだと思います。例えば、サックスプレーヤーになりたい少年が草っ原で鳴らす音は、きっとこんな音だろう……と想像する。とある高校生がサックスを吹いているだけだったら、想像できないと思うんです。感情と共に演奏しているんです。感情、気持ちがないまま画(え)を描いても音は鳴らないのかもしれません」

 「BLUE GIANT」は、キャラクターの心の動きを丁寧に描いている。だからこそ伝わるものもあるのだろう。

 「人を描こうとしています。人の思いを描かないと画で表現できない。夕日がキレイだなと思っている顔、ただ西を見てる顔では全然違います。それが何かはうまく説明できないのですが、気持ちを表現しようと注意しています。なかなかうまくいかないこともあるのですが」

 画の力強さもすさまじい。作中に「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すソロ」という言葉もあるが、画で内臓をひっくり返すくらいさらけ出しているようにも見える。

 「スタッフたちと本当に苦労しながら描いています。弱いな……となった時、何が弱いんだろう?と考え、試行錯誤しながら描いているんです。作品の宿命として、テンション、威力を上げていかないといけません。これ以上をどう描くんだ!?となってしまうこともあります。変化しないといけません」

 ◇上原ひろみへの絶大な信頼

 アニメの音楽は、ピアニストの上原ひろみさんがピアノ、国内外の奏者を集めたオーディションで選ばれた馬場智章さんがサックス、音楽プロジェクト「millennium parade(ミレニアムパレード)」の石若駿さんがドラムを担当する。石原さんや監督らの頭の中で鳴っていた音を表現した。

 「最初はどうやったらできるかな?と思っていたのですが、上原さんが作曲から演奏、劇伴まで全てやってくれて、とても感動的で説得力のある楽曲になりました。大は強く吹く、きっとロングトーンもあるし、肺活量がすごい。そこも表現していただけました。いい楽曲になりました」

 上原さんはこれまで「BLUE GIANT」のライブイベントに出演するなど同作との関係が深い。石塚さんも絶大な信頼を寄せている。

 「早い段階で作品を認知していただいていて、音楽的に分からないところ、アメリカのジャズ事情などを教えていただいています。マンガで作曲をしているシーンで、『どういう曲を作っているの?』と上原さんに聞かれたことがあります。『私が書いてみる!』と楽譜を送っていただいたんです。アドバイスをいただいていて、甘えきっています(笑い)」

 ◇アニメは原作とは異なる展開も

 アニメは「名探偵コナン ゼロの執行人」「モブサイコ100」などの立川譲さんが監督を務め、「幼女戦記」などのNUTが制作。原作の連載開始当時からの担当編集者で、ヨーロッパ編以降、ストーリーディレクターを務めるNUMBER 8さんが脚本を担当するなど豪華スタッフが集結した。山田裕貴さんが大、間宮祥太朗さんがピアニストの沢辺雪祈(さわべ・ゆきのり)、岡山天音さんが大に感化されてドラムを始めた玉田俊二をそれぞれ演じることも話題になっている。

 アニメは原作とは異なる展開もある。

 「脚本はNUMBER 8さんにお任せしました。物語は自由度が高いもので、いろいろなパターンがあるはずです。そのうちの最も強いものが描かれていて、映画として最高だと思います。感動したな!!と映画館を出ていってもらった方がいいですしね。マンガの結末とは違う、僕も見てみたかったシーンが描かれていて、うれしかったですね。グッとくるはずです」

 演奏シーンも気になるところで、石塚さんは「上原さんのライブで予告編を流していただいて、とにかくすごかったです! 映画館のスピーカーで感じてほしいですね。子供たちも見て、これがジャズか!となっていただけるとうれしいです。アニメの映像を見て、こういうやり方があるんだ!と気付いたところもあって、マンガでも使えないかな?と勉強させていただきました。アニメの映像は強くて、説得力があるんですよね」と太鼓判を押す。

 原作の今後の展開も気になるところで、石塚さんは「まだ続いていきます。いずれニューヨークに行き、もっと大きな勝負の場で戦う日々も描いていきたいです。僕自身も描いていて楽しいですし、この先も楽しみにしていてください」と話す。原作の展開にも期待が高まる。


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