喧嘩独学:菱田正和監督インタビュー ウェブトゥーンとアニメの親和性 富野由悠季監督の大きすぎる影響も

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 ウェブサービス「LINEマンガ」で連載中の“Webtoon(ウェブトゥーン)”が原作のテレビアニメ「喧嘩独学」が、フジテレビの深夜アニメ枠「+Ultra(プラスウルトラ)」で放送されている。ウェブトゥーンは、スマートフォンで読むことに特化した縦スクロールのマンガで、アニメは「プリティーリズム」「KING OF PRISM」シリーズなどで知られる菱田正和さんが監督を務める。菱田監督は、人気ウェブトゥーンをどうやってアニメ化しようとしたのだろうか?

ウナギノボリ

 ◇見開きのマンガとは全く違う

 「喧嘩独学」は、「外見至上主義」などでも知られるマンガ家のT・Junさんのウェブトゥーン。いじめられっ子の主人公・志村光太が、動画配信者として成り上がっていく姿が描かれている。2020年に「LINEマンガ」で連載を開始し、2022年には「第25回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門で「審査委員会推薦作品」に選ばれた。「アニメ化してほしい『LINEマンガ』オリジナル作品ランキング(男性篇)」で1位を獲得するなど人気を集めている。

 ウェブトゥーンが原作のアニメは増えつつあるが、多くはない。菱田監督は原作を読んで、どう感じたのだろうか?

 「面白いです。すいすい読みました。昔から脈々と続いている手に汗握る熱血マンガ、アニメが受け継がれていると感じました。感情移入できるまでの時間がすごく短く、スッと入ることができました」

 ウェブトゥーンは世界中で人気を集めており、マンガと言えば、見開き、横読みという固定観念が崩れつつある。

 「見開きのマンガとは全く違います。ウェブトゥーンは、一方通行のスクロールで読むので、コマを飛ばして見返すこともやりにくい。見開きのマンガをアニメ化する時のカット割と今回のカット割は全然違います。もしかしたら『喧嘩独学』以外の作品は違うのかもしれないですが、ウェブトゥーンの一方通行のスクロールの方がアニメのコンテと親和性が高いところがあるとも感じました。見開きのマンガは、イマジナリーラインを超えていくこともあります。キャラクターが右を向いていても、次の瞬間に左を向いたりする。今回は、そういうことはありませんでした。見開きのマンガは、目線が常に変わり、ジグザグになったり、飛んだりするけど、それがない。間もちゃんとつないでくれるし、文字だけのコマもあったりするのですが、スルスルとスクロールして読むことができます。アニメの時間の流れにも近い。『喧嘩独学』の原作は、ストーリー、絵コンテ、作画と分業で、アニメに携わっている人がやっているんじゃないかな?と勝手に思うくらい、親和性が高いです」

 ◇高い等身のキャラの難しさ

 「喧嘩独学」は、リアル寄りのスタイリッシュなキャラクターも魅力の一つになっている。一方、マンガらしいキャラクターの表情の表現もある。アニメでも原作のキャラクターの魅力を表現しようとした。

 「すごくリアルで繊細なので、描くのは正直難しいところもあります。頭身が高いと、崩れやすいんです。デフォルメされたキャラの方が崩れにくいんです。できるだけ原作に忠実に再現してもらう方向でやってもらっています。アニメの設定から、一線を越えて崩すのは難しいんですよ。原作がなければ、ここまで表情を崩せない。そこも忠実にやろうとしています。それに、原作がすごくよくできていますしね。アニメは本来、大げさな芝居、表情、動きもできるはずですが、最近はそうでもなくなっていて、『喧嘩独学』は原作でいけるところまでやっているので、そこを面白く伝えられるように、忠実に表現しようとしています」

 八潮秋、朝宮夏帆などの女性キャラクターも魅力的だ。

 「朝宮や秋は、男臭いところを緩和してくれますし、女子キャラの存在は大きいですよ。可愛いから、男子キャラの格好いいところが引き立つ。朝宮、秋は絶対的に可愛く描こうとしています。志村は、けんかだけじゃ生きていけない。朝宮がいるから生きていける。そんな気持ちとシンクロして作っているところもあります」

 アクションシーンも大きな見どころだ。

 「基本的には原作に忠実に描いていますが、ここぞというシーンは、原作の格好よさを最大限に見せるために、スーパーアニメーターの方々に膨らましてもらっています。原作が既に格好いいので、それをどうやったら生かせるのか?と考えながら作っています」

 ◇富野由悠季監督に頭のOSを全部書き換えられた

 「喧嘩独学」は、動画配信、スクールカーストなど今風の題材を描いているものの、アクション、恋、友情など普遍的なテーマが通底しており、ストレートな作品でもある。

 「ストレート、好きですね。僕は比較的ストレートなものをやってきたと思うのですが、そんなことないですか? オリジナルは、ただ普通に作っても見てもらえないことがあるので、ちょっとクセを強くすることもあるけど、『喧嘩独学』は素材の味を生かして、勝手にカレー味にしたりはしていません。今回、オファーをいただいた際に、僕に『合っている』と言っていただいたのですが、僕もそう思っています。素晴らしい作品をやらせていただき、感謝しています」

 菱田監督は「プリティーリズム」シリーズなどの女児向けアニメや「KING OF PRISM」シリーズなどの男性アイドルアニメだけでなく、さまざまなジャンルの作品を手掛けてきた。

 「女の子ものが集中して、男子が踊るアニメが集中して……ということはありますが、僕は何でもできるんですよ(笑い)。萌えアニメはあんまりやっていないけど、それ以外はできるんですよ。今回は、少年が主人公という意味では僕の原点に近いのかもしれませんね。アムロも志村も16歳ですし、結局はそこが好きなんだと思います」

 菱田監督は、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)でキャリアをスタートした。井内秀治監督や近藤信宏監督から演出を学び、「∀ガンダム」では演出助手を務め、富野由悠季監督の薫陶を受けた。富野監督の影響について「そりゃありますよ」と語る。

 「頭の中を書き換えられるくらい影響があります。入った瞬間から怒鳴られ、週に2回は怒鳴られてました。それを1年やったから頭のOSを全部書き換えられました。いまだにそこから逃れられない。でも、新しいOSをインストールしていますよ(笑い)。演出する意味など基本的なことは全て影響を受けていて、垣間見えちゃうところもあると思います。富野監督はカメラワークが多いですが、今回も多いですし、完全に影響を受けています」

 菱田監督は、さまざまな作品を手掛けてきたが、意外にも原作があるアニメの監督を務めるのは、1~3月に放送された「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。」と「喧嘩独学」の2本のみだ。

 「『半妖の夜叉姫』もありましたが、オリジナルストーリーでしたし、原作ものの監督は2本目なんです。原作ものは、原作の魅力を再現することに集中できます。ただ、原作にはファンがたくさんついているので、そのプレッシャーたるや半端ないですよ。逃げていい、と言われたら逃げます(笑い)。原作のキャラクター、せりふを大事にして、とにかく忠実に表現しようとしています。『喧嘩独学』、面白いんです。収録していても編集していてもいろいろな瞬間に面白いな……と思っています。やっぱり原作が面白いですしね」

 “面白い”原作の魅力をアニメでどう表現するのか? 菱田監督の手腕に期待したい。

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