解説:「てるてる家族」から「ブギウギ」まで “音楽”をテーマにした朝ドラの系譜

NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインを演じる趣里さん
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NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインを演じる趣里さん

 趣里さんがヒロインを務める2023年度後期のNHK連続テレビ小説(朝ドラ)「ブギウギ」(月~土曜午前8時ほか)は10月9日から第2週「笑う門には福来る」に入った。「ブギウギ」は、「東京ブギウギ」や「買物ブギー」などの名曲を歌った戦後の大スター・笠置シヅ子(1914~85年)が主人公のモデルで、歌と踊りに向き合い続けた歌手の波瀾(はらん)万丈の物語をフィクションとして描いている。近年では主題歌が毎作、話題になるなど、朝ドラと音楽は切っても切れないものだが、中でも音楽をテーマにした作品が節目節目に登場し話題になってきた。ミュージカル演出の先駆けとなった2003年後期の「てるてる家族」から音楽をテーマにした朝ドラの系譜をたどる。

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 ◇ミュージカル朝ドラの先駆け「てるてる家族」(2003年後期)

 「ブギウギ」では第4回(10月5日放送)で歌と踊りの道に進むことを決めた鈴子(澤井梨丘さん)が一人で浴場を掃除しながら、突然、笑顔になり、スポットライトに照らされながら「恋はやさし野辺の花よ」を歌い踊った。

 このようなミュージカル仕立ての演出を朝ドラ史上初めて取り入れたのが第69作「てるてる家族」(2003年後期)だ。原作は作家・作詞家であるなかにし礼さんの小説「てるてる坊主の照子さん」で、昭和40年代に大阪・池田の製パン店に育った四姉妹ら底抜けに明るい家族の物語を描いた。

 ここ一番の時に“てるてる坊主”をぶら下げて願をかける楽天的な性格の母・照子(浅野ゆう子さん)の夢は、娘たちが才能を開花させること。長女の春子(紺野まひるさん)はフィギュアスケート選手、次女の夏子(上原多香子さん)は歌謡界のスターに、三女の秋子(上野樹里さん)は即席麺の開発を手伝い、いつも家族の中心にいる四女の冬子(石原さとみさん)は製パン店再建の道に進む。

 石原さんは16歳9カ月という史上最年少のヒロインで、語りも担当した。脚本は大森寿美男さん、音楽は宮川泰さんが担当。「ケ・セラ・セラ」「恋のバカンス」「ブルーライト・ヨコハマ」「若いってすばらしい」などのヒット曲を、ストーリーに合わせて、出演者が歌い踊る演出が話題になった。

 ◇アイドルがテーマ「あまちゃん」(2013年前期)

 9月までBSプレミアムで再放送され、最終回後は“あまロス”が再び叫ばれるなど異例の盛り上がりを見せた第88作「あまちゃん」(2013年前期)。同作はアイドルがテーマの一つだった。

 2008年に高校2年生の天野アキ(能年玲奈さん、現のんさん)は、母・春子(小泉今日子さん)の故郷である岩手県・北三陸にやってくる。初めて会った海女の祖母・夏ばっぱ(宮本信子さん)の影響で海女さんを目指すことに。その後、地元アイドルになったアキは、東京で本格的にアイドルを目指す。東日本大震災が発生後は再び北三陸へ戻って親友のユイ(橋本愛さん)と共に地元アイドル「潮騒のメモリーズ」を復活させた。

 脚本は宮藤官九郎さん、音楽は大友良英さんが担当。小泉さんと薬師丸ひろ子さんという1980年代のトップアイドルをキャストに起用したことも話題になった。劇中で歌われた「潮騒のメモリー」「地元に帰ろう」「暦の上ではディセンバー」、インストのオープニングテーマを同年の紅白歌合戦で「あまちゃん特別編」として披露。全156回後の“伝説”の最終回(第157回)として語り草になった。

 ◇作曲家・小関裕而の生涯「エール」(2020年度前期)

 第102作「エール」(2020年前期)は、作曲家として多くの名曲を生み出した古関裕而(こせき・ゆうじ)を主人公のモデルに、音楽で人々を励まし、心を照らした夫婦の波乱万丈の物語として再構成し、フィクションとして描いた。

 主人公・古山裕一(窪田正孝さん)のモデルとなった古関裕而は1909年、福島県生まれ。全国高等学校野球大会の歌「栄冠は君に輝く」、阪神タイガースの歌「六甲おろし」、巨人軍の歌「闘魂こめて」などスポーツの応援歌や、ラジオドラマの「君の名は」「鐘の鳴る丘」、「長崎の鐘」「イヨマンテの夜」などのヒット歌謡曲の数々で知られる昭和の音楽史を代表する作曲家だ。

 ドラマは、福島の老舗呉服店に生まれた取り柄のない古山裕一が音楽と出会い、独学で作曲の才能を開花させる。それが縁で歌手を目指す豊橋の女学生、関内音(二階堂ふみさん)と知り合い結婚。上京した2人は二人三脚で数々のヒット曲を生み出していく。終盤は戦争で傷ついた人々の心を音楽の力で勇気づけようと、新しい時代の音楽を奏でた。

 裕一と同じ福島出身の作詞家の村野鉄男(中村蒼さん)、歌手の佐藤久志(山崎育三郎さん)は、実在する作詞家・野村俊夫と歌手・伊藤久男がモデル。劇中で3人は「福島3羽ガラス」と呼ばれ、人気となった。

 音楽は瀬川英史さんが担当。語りの津田健次郎さんやGReeeeNが歌う主題歌「星影のエール」も話題になった。

 ◇ジャズが随所に「カムカムエヴリバディ」(2021年度後期)

 第105作「カムカムエヴリバディ」(2021年後期)はジャズがテーマの一つとして随所に効果的に使用されていた。

 「カムカムエヴリバディ」は、朝ドラ史上初の3人のヒロインが織りなす100年のファミリーストーリーで、昭和、平成、令和の時代に、ラジオ英語講座と共に歩んだ祖母、母、娘の3世代親子の姿を描いた。上白石萌音さんは祖母の安子役、深津絵里さんは母のるい役、川栄李奈さんは娘のひなた役を演じた。

 劇中にはジャズのスタンダードナンバーとして知られる「On the Sunny Side of the Street(オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート)」が、何度も登場した。同曲は初代ヒロインの安子(上白石さん)と夫・稔(松村北斗さん)の思い出の曲であり、2人の娘・るい(深津さん)や周囲の登場人物にも大きな影響を与えた。

 ドラマの最終盤、岡山の「クリスマス・ジャズ・フェスティバル」の会場で、錠一郎(オダギリジョーさん)やトミー(早乙女太一さん)らの演奏に乗せて、るいが「On the Sunny Side of the Street」を熱唱した。そこに、ひなた(川栄さん)に背負われた安子(森山良子さん)が姿を現し、るいと50年の歳月を超えて熱い抱擁を交わすという名場面を彩ったのもジャズの音色だった。

 脚本は藤本有紀さん、音楽は「米米CLUB」などで知られる金子隆博さんが担当。AIさんが歌う「アルデバラン」も評判になった。

 ◇「波浮の港」「東京行進曲」の佐藤千夜子をモデルにした朝ドラも

 1961年にスタートした朝ドラをひもといていくと、第19作「いちばん星」(1977年度)のヒロインは、日本の流行歌手第1号と言われ、「波浮(はぶ)の港」「東京行進曲」などで、昭和初期に一世を風びした佐藤千夜子がモデルだったという。

 朝ドラ109作目の「ブギウギ」は、歌劇のステージやニュージカル演出など、歌や踊りのエンターテインメントな場面をふんだんに盛り込むという。ヒロインのモデルとなった戦後の大スター笠置シヅ子の半生とともに、音楽にあふれた演出を“ズキズキワクワク”しながら楽しみたい。

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