大奥:“男女逆転大奥”の重厚な世界観を表現 原作に忠実に アニメならではの表現も

アニメ「大奥」の一場面
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アニメ「大奥」の一場面

 よしながふみさんの人気マンガが原作のアニメ「大奥」が、6月29日からNetflixで世界独占配信される。原作は、疫病で男性が女性の4分の1の人口になったことで男女の役割が逆転した江戸時代を舞台に、江戸城大奥の人間ドラマを描く。これまでも実写化されてきたが、アニメ化されるのは初めて。アニメの監督を務めるのは、「幽☆遊☆白書」「BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-」「BLEACH」といった人気作を手がけてきた阿部記之さん。アニメ化する上で「原作に忠実に」を第一としたという。阿部監督に制作のこだわりを聞いた。

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 ◇時代劇でありSF 第1話約80分でコミックス第1巻を一気に見せる

 「大奥」は「メロディ」(白泉社)で2004~21年に連載されたマンガ。若い男性のみがかかる奇病・赤面疱瘡(あかづらほうそう)がまん延し、男子の数が激減した江戸時代、徳川の世を守るため将軍職は女性が引き継ぐこととなる。大奥は“美男三千人”と言われる男の城となり、運命に翻弄(ほんろう)される女将軍、彼女たちに仕える男たちの人間ドラマが描かれる。

 「大奥」は、男女が逆転した世界観で、実在した歴代将軍、幕府要人をモデルにしたキャラクターが登場する。阿部監督は、同作の魅力を「しっかりとした時代劇でありSFである」と感じたという。

 「読んでいるうちにだんだん原作が本当の歴史なのかと思えてくるほどに作り込まれている。ある部分を変化させることによって、全ての歴史が変わっていくという。重厚な作られ方をしている作品だからこそ、アニメ化する上では、ストーリーのどこかを変えるということはできない作品だと思いました」

 阿部監督は「ストーリーをどこも外すことなく、できる限り原作に忠実に作らせていただいた」と語る。アニメ第1話は、約1時間20分の長尺で、8代将軍吉宗と水野祐之進の物語が描かれるコミックス第1巻をまるごとアニメ化した。

 「第1巻は『大奥』という世界を紹介するようによしなが先生が描かれているので、我々もそこを割って3話で見せるよりは、第1話で描ききった方がいいだろうと。Netflixのシリーズでは、1話ごとの尺が固定ではないので、ストーリーに合わせて各話の尺を調整していきました」

 ◇日本家屋、着物にこだわり 重くならず華やかに

 「大奥」の舞台は、きらびやかな江戸城大奥。重厚なストーリーをよりリアルに見せるべく、日本家屋などの美術面にもこだわった。

 「大奥の建物自体も、約300年続いた江戸幕府の歴史の中で変化していますし、現存しているものは少ない。時代劇をやろうとすると、実は分からない部分がたくさんあるんです。背景を描く上で、残っている屏風絵などを参考にしながら、できる限りリアルに近づけようとしました」

 日本家屋特有の光の表現にもこだわった。キャラクターが居間にいるシーンでは、障子越しの光がキャラクターを美しく照らす。

 「当然ですが、キャラクターの顔は光側が明るく、その逆の面が暗くなる。アニメでは、影を一部分のみに付ける場合も多いですが、実際に日本家屋の中にいるように、影を多めに付けるようにしました」

 「大奥」をアニメ化する上で、最も苦労したのは着物の描写だという。作中には、きらびやかな着物をまとったキャラクターが多く登場するが、ほぼ全てのキャラクターの着物にテクスチャーを貼りこんだという。貼りこむことで、立体感が出たり、着物が自然に見えたりする効果があるが、細やかで手間がかかるはずだ。

 「アニメーションのセルのままではなく、着物の柄を動きに合わせて貼っていく。3Dアニメであればやりやすいのですが、2Dのアニメでは不得意なので、そこは人海戦術というか、丁寧に貼っていくしかない。ほかの作品ではなかなかやらないのですが、今回は挑戦してみました。何種類もある着物の生地、柄に合わせて貼りこみをしています。それを違和感なく見ていただけたら、我々としては大成功ですね」

 リアルさにこだわった背景、着物とよしながさんが描く美しいキャラクターを合わせることで「よしなが先生の絵の華やかさもありつつ、必要以上に重くならず」、アニメで「大奥」の世界観を表現した。

 「実は、よしなが先生は、それほど自分のキャラ通りにすることにあまりこだわっていらっしゃらなかったんです。先生の絵はがたいがいいというか、首などもしっかりしているので、アニメでは『もう少しきゃしゃでもいいかな』とは言われていましたが、やはり原作の絵が素晴らしいので、そのまま描かせていただきました」

 阿部監督は、「SFとして時代劇として非常に濃厚なストーリーで、キャラクターも本当に奥深い作品なので、それを映像化する面白さを感じました」と制作を振り返る。アニメには、万里小路有功役の宮野真守さん、徳川家光役の松井恵理子さんをはじめ豪華声優陣が集結し、「役者さんも原作を読み込み、非常に考えて芝居してくださっていて、声がつくことで、思っていたよりずっと深くそれぞれのキャラクターの気持ちが伝わってくると思います」と手応えを語る。

 名作「大奥」の新たな魅力をアニメで感じられるはずだ。

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