種崎敦美:「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」最終回の裏側 死ぬほど悩んだ「ぼくの名前はエンポリオです」

「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の一場面(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SO製作委員会
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「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の一場面(C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SO製作委員会

 荒木飛呂彦さんの人気マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」の第6部が原作のテレビアニメ「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。2021年12月にNetflixで先行配信がスタートし、2022年1月にテレビアニメが放送を開始した。4月に最終回となる第38話が放送され、約1年半に及ぶ放送が大団円を迎えた。メインキャラクターとして唯一生き残り、物語の結末に重要な役割を果たしたエンポリオ・アルニーニョを演じたのが、人気声優の種崎敦美さん。種崎さんに作品への思い、今だからこそ話せる最終回の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇オーディションで魂をひかれたエンポリオ 運命を感じた

 --「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズとの出会い、思い出を教えてください。

 出会いは……いつでしょう……弟の「ジャンプ」をコソコソ読んでいたので小さい頃から作品の存在は知っていました。でも少女マンガが大好き!だった小学生の頃の自分は荒木先生のアーティスティックな絵柄から……なんでしょう、ものすごい色気を感じていたんだと思うのですが「わ! 大人の作品だ……見ちゃだめだっ……」と、照れてページをものすごい勢いで飛ばした記憶があります(笑い)。全然そんなシーンじゃなかったのに(笑い)。

 なので自分の人生でしっかりと「ジョジョ」シリーズと「出会った」と言えるのは「岸辺露伴は動かない」の「六壁坂」で大郷楠宝子役のお話をいただいた時です。アフレコまで時間がなかったので、原作ではなく、作品の世界観をつかむために見られるだけアニメを見て行きました。「六壁坂」は内容もかなり衝撃的でしたし「あのジョジョに自分が参加できる日がくるとは……」と、かなり緊張していました。若くして婚約者がいるようなお嬢様なんだよな……と思ってテストで演じたら岩浪(美和)音響監督に「もっとアバズレでいいと思うよ、男連れ込んでんだもん」とディレクションをいただいてからいろんな意味で吹っ切れて、その後の収録はとても楽しかった記憶があります。そこで「ジョジョのアフレコ現場ならでは」のことは一通り経験していたのもあり、「ストーンオーシャン」で参加した時も「ならでは」の部分にはスッと対応していけました(笑い)。

 --「ストーンオーシャン」にエンポリオ役で出演が決まった際の気持ちは?

 最初(空条)徐倫役でオーディションを受けるにあたり、原作を読みました。徐倫役に備えて読み始めたというのに、その時に「ああ……私はエンポリオを演じたい」と魂が引かれた感がありまして……(笑い)、それを口に出したわけではないのに徐倫役に落ちてしばらくたってから、まさかのエンポリオも受けることができて、その結果、役を任せていただけて、運命を感じざるを得ませんでした。なので決まった時は本当に本当にうれしかったです! ……が!それはつまり「ストーンオーシャン」のクライマックスはほぼ自分にかかっているということでもあるのでは……?と思い、喜びもそこそこに、真顔で原作を再び読み込みました(笑い)。いつでも読めるよう部屋の手の届くところに常に原作を置いていましたね……。

 --エンポリオの魅力は?

 魅力……どこでしょう……存在そのものですかね……? 圧倒的な賢さと、知識量、年齢の割に高すぎる適応能力は素晴らしいですし、登場からしばらくは「やめようよ、できないよ、むりだよ」のような腰が引けたネガティブな言動が多いのですが、全て誰かを思ってのことなので全然嫌な印象にならないですし、そんな言動をしていてもラストにつながるかのような強い意志はずっと感じますし、ちっちゃくて姿も反応も可愛いのに男の子が成長していく姿はやっぱり圧倒的にカッコいいですし。「ストーンオーシャン」における彼の存在全てが希望であり魅力ですね……なんて(笑い)。

 --エンポリオを演じる上で大切にしたこと、難しさを感じたことは?

 技術面でいうと、「ジョジョ」に小声(ウィスパー)はない、と岩浪音響監督がおっしゃっていましたが、序盤の立ち回り上、エンポリオは割とそれが許されている気がしました。が、絶対本当ならもっともっと小声だろうな……と思いつつ「ジョジョ」ルールにのっとって(笑い)。はっきりくっきり伝えることや、序盤もクライマックスもあのテンション感の中、説明ぜりふが物理的に多かったのですが、テンションと気持ちを落とさず、ただの説明にならないように……みたいなものはずっと意識してしっかり準備していっていました。気持ちの面では、あえてあまり準備はせずにアフレコ現場の空気と、ほかのキャストさんから受け取る「ジョジョ」の現場ならではの圧倒的熱量の流れに乗っていこうと思っていました。

 ◇「みんなの希望であれるために」 最終話収録で“プッチ神父”関智一の命懸けの気迫

 --「ジョジョ」の現場ならではのエピソードを教えてください。

 ガッツリ心の準備をしていかなくても、収録が始まった瞬間に「いざ!」と気持ちをあげなくても、「ジョジョ」のアフレコ現場にいると勝手にスイッチが入って勝手に流れに乗っていけるのが、この現場の熱量ならではなのだろうなぁ……と思っています。家でリハV(映像)を見ながら練習している時には「難しいなぁ」と思っている部分もほかのキャストさんの声と熱を受け取ると自然とスッとできてしまうあの感覚は忘れられないです。あっ、あと「ごふぅっ!」とか「ッッッッ!」とか、(台本に)書かれてある言葉を書かれてあるまま読むなどの、まさに「この現場ならでは」な部分は「普通に考えるとある意味不自然なことを自然にやる面白さ」をかみ締めながら、かなり楽しんでやらせていただきました(笑い)。

 --演じていて印象に残っているシーンは?

 あげ始めるときりがないのですが(笑い)、アニメオリジナルで、まさかの序盤に「ぼくは、エンポリオ……」というせりふが出てきた時はファイちゃん(徐倫役のファイルーズあいさん)と一緒に「エモすぎる……」と盛り上がりましたし、ミューミュー(ミュッチャー・ミューラー)との戦いは徐倫お姉ちゃんとの「??」みたいなやりとりが、真面目にやればやるほどどこか面白くて、でも(ミューミューのスタンドの能力により)三つしか憶(おぼ)えていられないという事実をちゃんと考え始めると震えるほど怖くて、ミューミューの甲斐田(裕子)さんの声が、怖いのに心地よくてずっと聞いていたかったですし、あと脱獄の時の「ぼくの『いつか』は今だ。ぼく……外を見てみたい!」というアニメオリジナルのせりふにはスタッフの皆様に心からの感謝と敬意を表するしかなくて、あのせりふのおかげで脱獄後の覚悟……といいますか、最終回への覚悟が固まった気がしますし、シャバに出てからのエンポリオのあまりのはしゃぎっぷりに一瞬戸惑っていたら「生まれて初めてのシャバだからね、そりゃあはしゃぐよ、もっとはしゃいでいいよ」とディレクションをいただいたり、最終話は言わずもがなで、その前の話数からの全てが印象に残っていますし……という感じで無限に話せるので自重します……。

 --最終話の収録にはどんな思いで臨まれたのですか。

 エンポリオを任せていただいたその時から、この最終話へ向けて……!の気持ちがずっとありました。考えずとも常に頭の片隅にそれはあって、みんなの希望であれるために、それまでを重ねていっている感覚でした。ラスト2話分の収録はそれまで以上に本当に緊張していたのですが、何かに引っかかることも手こずることもなく、信じられないくらいこの収録もすんなりいきました。もちろん物理的に心身の疲れはものすごかったのですが(笑い)。プッチ役の関(智一)さんなんてそのまま倒れてしまうのでは……というくらいまさに命懸けの気迫が隣からガンガン伝わってきて「ああ、本物の役者って本当に本当にすごい……」と泣きそうになりました。最後まで演じきれたのはそんなふうに関さんの役者魂にひっぱっていただけたことがとても大きいと思います。

 状況も感情もジェットコースターのようにどんどん変わっていく中で、考えずとも体が反応していってくれる感覚がありました。関さんと2人の収録の後に入れ替わりでファイちゃんやむっちゃん(エルメェス・コステロ役の田村睦心さん)、(ナルシソ・アナスイ役の)浪川(大輔)さんがブースに入っていらして、エルディスの最初の一声を聞いた瞬間からエンポリオでなく私が泣きそうになってしまったので「まだだ……っ」とこらえました。それを察してくださったのか、岩浪音響監督が「エンポリオを別録(ど)りにするから好きなように息を入れてもらっていいですよ」とおっしゃってくださって。その息を実際にオンエアで使うか使わないかは別として、泣き出してしまう前から何も気にすることなく、その時の気持ちのままに呼吸をさせてもらえて、死ぬほど悩んだ「ぼくの名前はエンポリオです」が自然と自分から出てきて、本当に、その環境を作ってくださった全ての方々にただただ感謝しかなかったです。

 ◇改めて教わった役者の役目 「キャラクターであればいい」

 --「ストーンオーシャン」で新たな表現、挑戦となったことは?

 クライマックス付近は常にテンションもクライマックス、最終話に関してはプッチから逃げながらひたすら叫び続ける。せりふらしいせりふはなく本当にずっと逃げ、叫び続ける……というのはさすがに初めてでした。原作を読んだ時に、ここは気持ちより技術が必要になるかもしれないな……ただ叫ぶだけにならないようにしなきゃな……と、一人で悶々(もんもん)と考えていたりしたのですが……杞憂(きゆう)も杞憂でした。一人になった寂しさや追い詰められる恐怖、理解が追いつかない中で頭と体をフル回転。気持ちの比率?がちょっとずつ変化しながら必死に逃げる、考えながら逃げる……気持ちも行動も同じ瞬間なんて全くなくて、アフレコが始まる数カ月前の「技術が必要になるかもな……」なんて考えてた自分に教えてあげたいくらい、そんな余裕はなかったです(笑い)。アニメーションスタッフの皆様の作品愛と作品理解力と演出力でただエンポリオであればそれでいい状況にしていただきました。新たな表現や挑戦になるかと思いきや、スタッフ、キャストみんなで作るアニメの中で役者のすべきこと「キャラクターであればいい」という一番大事な当たり前の自分の役目を改めて教えていただいた感覚です。

 --エンポリオを演じ、改めて感じた「ストーンオーシャン」の魅力は?

 「ストーンオーシャン」……やっぱり女性が主人公であることで、自分が子供の頃に「ジョジョ」という作品にもっていたイメージが覆った感覚といいますか、女性の強さや優しさやたくましさが本当にカッコよくて美しかったです。美しいのに受け継がれるものは変わらず激アツ。そしてジョジョではないエンポリオが最後に一人生き残ってプッチを倒す展開……激アツのアツすぎますよね……。すべてを託され、意志を継いでいるのだからエンポリオもまたジョジョ……ということで一つ。キャラクターも、その展開も、今この時代にやるからこそ、よりその魅力が増しているような気もします。運命ですね。

 「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」の第1~24話はNetflixほかで配信中。第25話~最終38話はNetflixで独占配信中。

 ※種崎敦美さんの「崎」は「たつさき」

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