小野憲史のゲーム時評:「エルデンリング」の大ヒットにみる日本の家庭用ゲームの可能性

「エルデンリング」のビジュアル
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「エルデンリング」のビジュアル

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、ゲーム開発・産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」元代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、昨年大ヒットしたフロム・ソフトウェアのアクションRPG「ELDEN RING(エルデンリング)」について語ります。

ウナギノボリ

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 ゲームの評価は人によって違う。あるゲームについて「歯ごたえがあって面白い」という人もいれば、「難しすぎてつまらない」という人もいる。だからこそ、名作とされるゲームの多くでは、初心者から上級者まで幅広く楽しめるように、さまざまな工夫がほどこされる。任天堂で社長を務めた故・岩田聡氏はしばしば「間口が広く、奥が深い」ゲームが理想だと述べた。こうしたゲームの特性が発言の背景にあることは、言うまでもないだろう。

 ところが、それとは真逆のゲームが世界を席巻している。フロム・ソフトウェアのアクションRPG「ELDEN RING(エルデンリング)」だ。ゴシックファンタジーと呼ばれるダークな世界観や、広大な世界を好きなように探索できる自由度の高さ、プレイヤー自身の創意工夫が求められる高い難易度など、総じて人を選ぶ内容になっている。一人称視点シューティングや、スポーツゲームなどと比べて間口が広いとはいえず、大手パブリッシャーから敬遠されがちな内容だ。

 にもかかわらず、本作は昨年2月に発売されるや否や、全世界で熱狂的に迎えられた。本年2月22日には世界累計出荷本数が2000万本を記録し、その9割以上が海外市場だとされる。その年に発売された最優秀作品に贈られる「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」を、日本ゲーム大賞、The Game Awards(米)、Golden Joystick Awards(英)、DICEアワード(米)など数々のゲームアワードで受賞しており、玄人筋の評価も折り紙付きだ。

 本作を開発したフロム・ソフトウェアは、初代プレイステーション向けに発売された第一作「キングスフィールド」以来、コアゲーマー向けのタイトルを得意としてきた。世界的な評価が高まったのが、「ELDEN RING」の源流とも言える「DARK SOULS」シリーズだ。その後もヒットを重ねながら、徐々にスタジオとしてのブランド価値を高めてきた。「ELDEN RING」のヒットはその集大成とも言えるだろう。

 ゲームだけでなく、開発者に焦点が当たっている点も特徴だ。ディレクターをつとめた宮崎英高氏は、外資系IT企業を経て同社に転職し、数々のタイトル開発で活躍。2014年に社長に就任した異色の経歴の持ち主だ。2022年には経済産業大臣賞を受賞するなど、今や日本を代表するゲームクリエーターの一人になった。中でも海外ゲームファンからのリスペクトには、並々ならぬものがある。

 このように本作の評価には、さまざまな文脈がある。自分たちが作りたいものを作っているように感じられる点。クリエイターの顔が見えるゲームである点。かつてのゲーム大国、日本から登場したヒット作である点。似たようなゲームに乏しく、差別化に成功している点。高い技術力に裏打ちされている点。他にもさまざまな言い方ができるだろう。それらを乱暴にまとめると、「インディー(独立系)ゲームの匂いがする大作ゲーム」のように感じられる。

 ただし、前述のように人を選ぶゲームであることは事実だ。つまり本作はターゲットを絞り込み、ターゲットが求めるゲームを、高いクオリティで創り続けた点が評価されたことになる。その結果が高い評価につながった。「間口が狭い」ジャンルでも、足下を深く掘り進めていき、世界中のファンを糾合していくことで、大ヒットに繋げられるというわけだ。その背景にあるのが、今や世界で約22兆円にまで拡大したゲーム市場となる。

 さて、そのうえで個人的な注目事項がある。それが3月に米サンフランシスコで開催されるGame Developers Choice Award(GDCA)の行方だ。本賞はゲーム開発者のコミュニティーによって選出される点が特徴で、他の賞とは立ち位置が異なる。The Game Awards、Golden Joystick Awards、DICEアワード、そしてGDCAでゲームオブザイヤーを獲得したタイトルは数えるほどしかなく、「ELDEN RING」の受賞の行方が注目される。

 もっとも、GDCAのゲームオブザイヤーは過去3年間、「Untitled Goose Game~いたずらガチョウがやって来た!」(2019)、「Hades」(2020)、「Inscryption」(2021)とインディーゲームが受賞している。それだけ欧米圏のゲーム開発者の関心がインディーゲームに向いているのだ。こうした中、「ELDEN RING」が流れを変えられるか、あらためて期待したい。それは日本の家庭用ゲームのあり方を占うことにもなるだろう。

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 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーランスで活躍。2011からNPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)の中核メンバー、2020年から東京国際工科専門職大学講師として人材育成に尽力している。

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