富野由悠季監督:宇宙開発、エネルギー問題 「G-レコ」に込めた思い 「このメッセージは50年残る」

「Gのレコンギスタ」の第4部「激闘に叫ぶ愛」の一場面(C)創通・サンライズ
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「Gのレコンギスタ」の第4部「激闘に叫ぶ愛」の一場面(C)創通・サンライズ

 テレビアニメ「ガンダム Gのレコンギスタ(G-レコ)」の劇場版「Gのレコンギスタ」(富野由悠季総監督)の第4部「激闘に叫ぶ愛」が公開された。8月5日には完結編となる第5部「死線を越えて」が公開され、2014年にテレビアニメの放送がスタートしてから約8年で、完結を迎えることになった。“ガンダムの生みの親”の富野監督は「G-レコ」を50年残る作品にしようとしてきた。「機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)」の放送が始まった1979年から40年以上たつが、今も古びないメッセージが込められている。「G-レコ」もファーストガンダムのようにメッセージを込めたといい、富野監督は「50年くらいはメッセージ性として古びないといううぬぼれがあります。そんなうぬぼれがなければ作らない」と語る。富野監督に「G-レコ」に込めた“50年残るメッセージ”について聞いた。

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 ◇テーマは宇宙開発絶対反対 ガンダム的なものを全否定する

 「G-レコ」は、「機動戦士ガンダム」誕生35周年記念作品の一つとしてテレビアニメ版が2014年10月~15年3月に放送。劇場版はテレビアニメ全26話に新たなカットを追加し、全5部作として公開する。宇宙から地球へのエネルギー源をもたらすキャピタル・タワーを守るキャピタル・ガード候補生のベルリ・ゼナムの冒険を描く。

 テレビアニメの放送開始から約8年たつが、富野監督は「自分自身がやっぱり間違ったことをやってないという確信がむしろ年々はっきりしている」と語る。

 「最終的にテレビ版で分かりにくかったところも見られるようになったので、こういうふうに作っておけば50年は持つ。このメッセージは50年残るんです。直線的な思考の連中に、いい加減にしなさい!と言うためには50年くらいは掛かるわけ。最初の狙いは間違ってなくて、むしろこの10年で現実がマイナスに進んでいった。僕の場合も『ガンダム(ファーストガンダム)』から始まってるんだけども、宇宙開発論というのは基本的にナンセンスなんです。イーロン・マスクが人工衛星をたくさん打ち上げて、通信網を築こうとしているけど、ついに行くところまで来てしまった。『G-レコ』を立ち上げた時のテーマは宇宙開発絶対反対なんです」

 「G-レコ」には、キャピタル・タワーと呼ばれる宇宙エレベーターが登場する。宇宙で生産されているフォトン・バッテリーというエネルギー源を地球に運ぶのがキャピタル・タワーだ。

 「宇宙エレベーターを作るとしても、宇宙エレベーターはインフラなんですよ。メンテナンスまで含めて維持しながら、どうやってペイするのか? 経済論の話です。『G-レコ』では、フォトン・バッテリーを宇宙で生産して、それを宇宙から運んでくる。だから宇宙エレベーターが経済として成立する」

 近年、民間宇宙旅行時代が到来したとも言われている。宇宙開発への関心もさらに高まっている。

 「本当にめでたい話です。彼らは結局、20世紀の宇宙に対するロマンにとらわれている。観光客として宇宙に行って、何日耐えられるのか? 朝昼晩の地球の景色を見られるから、それなりに見ていられるだろうと思う。じゃあ、月や火星への観光旅行は成立するのか?っていう話だよね。3日も乗ったら飽きるよ。なのに、宇宙開発とか、移民という言葉も出てきている。20世紀までのSFの見過ぎかなのか? そういうものをそろそろ是正しなくちゃいけない。だから『G-レコ』を作ったんですよ」

 「僕自身も経験してることで、現在の日本の宇宙開発をメインにやってる人間は意外にガンダムファンなんです。言ってしまえば、僕の教育が悪かった。そこまで責任は持たないんだけど」と話すように「機動戦士ガンダム」をはじめ富野監督が作ってきた作品の影響も大きい。

 「それがあるから、決着を付けておかないとまずい。僕自身が小学校5年生から20歳くらいまでは宇宙オタクだったんです。でも、宇宙開発についていえば、気象衛星を打ち上げたり、地球を定点観測したりするのが限界。これ以上のものはむしろ必要ない。月を領土にしたら統治できるのか? SFの世界でもあったことだけど、統治できない。簡単な問題で、距離なんですよ。通信が発展しても難しい。でも、子供の頃の勘違いをそのまま持ち込んで大人になってしまって、ロマンにとらわれているんです。ガンダムを作り続けてきたから思えることなんです。『∀(ターンエー)ガンダム』が終わってから、10年くらい何も考えていなかった。でも、ガンダム的なものを全否定するものを作らないといけないと思ったんです」

 ◇アニメの話だけど絵空事ではない アニメだからできる

 「G-レコ」は宇宙開発論だけを描いているわけではない。エネルギー問題も大きなテーマになっている。

 「エネルギーは地球に埋蔵されているものを使っている。地球というのは有限なんです。これからずっと人類が使えるか?というと、使えない。枯渇する。あと残ってるのはフォトンだけ。太陽が死滅するまでの時間を考えると、30億年くらいは使えるだろうから。問題なのは、それができるか? できるわけないよね、現に石炭や石油を使えないご先祖様たちは、太陽光の元で暮らしていたわけじゃないですか。その歴史を素直に受け止めて、そろそろ戻らなくちゃいけないんじゃないの?って話。フォトン・バッテリーに込めているメッセージはそこなんです」

 富野監督がエネルギー問題などを描くのは「G-レコ」が初めてではない。ファーストガンダムの時代から未来を見据えてアニメを作ってきた。

 「人間にとって大事なのは、農業と漁業しかない。あとの技術は一切合切、余分なこと。今の地球でそれができるか? できないんです。『ガンダム』で最初に『増えすぎた人類を……』と言ったことです。人類は総人口を半分にするくらいの覚悟を持たなくちゃいけない。それも、かつてギレン・ザビに言わせたことです。でも、資本主義の考え方の恐ろしいところは、絶えず上昇していかないといけない。既に人口が100億人になったらまずいと言っている人もいるけど、このままでは地球は100年も持たない」

 富野監督は「これはアニメだから言っているんですよ! でも、アニメだけの話でもない」とも語る。

 「アニメの話だけど、絵空事ではない。アニメだからできるところもある。実写だと面倒くさいことになる。生身の役者にこんなことを言わせると、やっぱり角が立つ。描かれたものがしゃべるという便利さをはっきり利用させてもらいました。僕の場合、アニメをこういうふうにしか使えない人間なんです。文芸作品を作れる人間じゃなかったんで」

 近年、「持続可能な社会の実現を」とも叫ばれるようにはなっているが、富野監督は「政治の世界の言葉遣いで一般化しませんよね。政策として浸透していくだろうけれども、やはり時間がかかる。テーゼとして広がっていくとは思えない。アニメというような媒体だから言えることを積み重ねていく方が早いかもしれない」と語る。

 80歳の富野監督は、人類の未来のために「G-レコ」を作った。「G-レコ」は見る度に気付きがある作品だ。10年後、20年後……と見返すと新たな発見があるかもしれない。

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