テレビアニメ「ガンダム Gのレコンギスタ」の劇場版第1部「行け!コア・ファイター」が11月29日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)などで上映される。劇場版は、主人公のベルリ・ゼナムとヒロインのアイーダ・レイハントンを中心とした物語として描き直す。テレビアニメ版とは何が違うのだろうか……。富野由悠季総監督に聞いた。
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「ガンダム Gのレコンギスタ」は、「機動戦士ガンダム」誕生35周年記念作品の一つとしてテレビアニメ版が2014年10月~15年3月に放送。地球のエネルギー源を宇宙よりもたらすキャピタル・タワーを守るキャピタル・ガード候補生のベルリ・ゼナムの冒険を描いた。劇場版はテレビアニメ全26話に新たなカットを追加。全5部作として上映される。
なぜ、劇場版はベルリとアイーダの物語を描き直そうとしたのだろうか……。富野総監督は「大事なのはアイーダとベルリの姉弟話。画面に一番出ているベルリとアイーダの関係がよく分からなかったから、子供には見られなかった。テレビシリーズではそうなってしまっていたんです。でも劇場版を見れば、二人の関係をしっかりと見ることができます」と説明する。
「一つか二つ年上のお姉さんをちょっと好きになっちゃった。でも好きになっちゃったのは、実を言うと本当のお姉さんだった。男の子だったら、それが(第3部で)分かった時はやっぱりそれなりにもだえるだろうと思います。反対にお姉さんだったら、やっぱり弟をどう扱うかともだえるでしょう。テレビシリーズではそのことをやっていなかった。その部分を補強して芯ができると、それ以降にテレビシリーズと同じことを描写していても、ベルリとアイーダの関係がとても見やすいものになるんです」
具体的に描写がどう変わったのだろうか?
「逆に冒頭の第1部では、恋人を殺した敵に対して認めざるを得なくなった時、アイーダがあれだけ泣くという描写に変えました。その感情が腑(ふ)に落ちる、という点がないと観客は絶対に映画を見てくれない。ここまで深刻に姉弟話をやっている作品は、そんなにはなかっただろうからね。アニメは基本的にファンタジーだから、初めから王子様とお姫様でいいわけですよ。でも今回の『G-レコ』は姉弟話もかなりリアリティーのある、皮膚感を持ったキャラクターになっていると思います」
富野総監督の作品は群像劇としての魅力もある。ベルリとアイーダ以外のキャラクター以外の物語はそぎ落とされるのだろうか?
「そぎ落とせません。本当に悪い癖で、結果的に群像劇になってしまう。ほかにできないんです。二人の物語を補完しているけど、ほかの人物をそぎ落とせるわけがない。それができない作り方になっているんです。社会がないと二人が生きている意味がない。そうは言っても抜いたエピソードはありますが。ストーリーラインからブレていて、間違っているからそれは落とした」
「社会がないと二人が生きている意味がない」という言葉が印象的だ。富野総監督はこれまでもアニメで社会を描いてきた。一方で、昨今はアニメやマンガではキャラクターこそが大切だと言われている。富野総監督は「社会を考えないと、お話が作れない。社会があるからキャラクターが生まれる。今は大学なんかでキャラクター学科があるらしいけど、最低です。そういうものでアニメを作ることができると思っている人は申し訳ないけど」という考えがある。
「Gのレコンギスタ」にはクンタラと呼ばれる差別される人々が出てくる。クンタラとは、食糧難の時代に代用食として食された人々と、その子孫だ。社会を描く中で、差別という普遍的な問題もあぶり出した。
「僕は意気地なしだから、クンタラという固有名詞を用意した。宗派論からの差別論は危険。宇宙世紀からリギルド・センチュリーの間に人類が絶滅寸前になり、そこから生き残るために、完全に弱肉強食になり、典型的なカニバリズムがあったんじゃないか? 食べられる人、食べざるを得ない人がいたのではないか? 人種論、差別論をひっくるめて話ができる。それを見つけたんです。アニメやマンガなどのローカルチャーだから、『いつまでも差別はいけません』と言うよりも伝わるんじゃないか。ローカルチャーの威力を感じました」
「Gのレコンギスタ」は、まさに「ローカルチャーの威力」を感じるアニメに仕上がっている。作品で描かれている問題に、何か感じることがあるはずだ。
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