この世の果てで恋を唄う少女YU-NO:伝説のゲームを今、アニメ化する意味 制作の裏側 「可能な限り原作をそのまま描く」

アニメ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」を手がける平川哲生監督
1 / 15
アニメ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」を手がける平川哲生監督

 1996年にPCゲームとして発売された人気ゲームが原作のテレビアニメ「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」。原作ゲームが発売されたのは20年以上前だが、後のゲームやアニメなどに影響を与え、“伝説のゲーム”とも呼ばれている。アニメを手がける平川哲生監督は、当時の空気感を大事にしたかったといい「原作の多くの部分は変えていません。可能な限り原作をそのまま描きたい」という思いから、原作ゲームの膨大なテキストを読み込み、分解、再構築した。平川監督に伝説のゲームを今、アニメ化する意味や制作の裏側を聞いた。

ウナギノボリ

 ◇伝説のゲームの影響 今、アニメ化する意味

 「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」は、プレーヤーがさまざまに分岐した並列世界を探索し、その奥に潜む謎に迫る。1996年発売のPC版が発売されて人気となり、セガサターンにも移植された。2017年にはPS4、PSVita向けにキャラクターデザインやキャストを一新したリメーク版が発売され、リメーク版を元にテレビアニメ化されることになった。平川監督はかつて、セガサターン版をプレーし、衝撃を受けたという。

 「私がプレーした時にはすでに伝説になっていました。SF、科学、オカルト、歴史、恋愛、謎解き、ファンタジーとさまざまな要素が複雑に混ざりあった作品で、ゲームシステムとシナリオの連動や、並列世界仮説の時代の先取りも含めて、歴史に残る大傑作だと私は思っています。原作は異世界編と呼ばれる後半部分が未完成のままなのですが、しかし未完であるがゆえにカルト的な人気を誇ったのもうなずける内容でした。原作の魅力は、なんといっても菅野ひろゆきさんのテキストの魅力に尽きます。不思議とくせになるテキストなんですよね。ちょっとした小ネタとかが面白かったり」。

 96年の発売から20年以上たつが、いまだに伝説のゲームとして語り継がれている。しかし、時代は変わり、アニメやゲームを取り巻く状況も変わった。平川監督は今、アニメ化する意味をどのように考えているのだろうか?

 「古典の現代的意義は視聴者がそれぞれに発見するものだと思いますが……。あえて制作側から言うなら、後に派生作品を生み出した原作の古典的な魅力と、それを現代的な解釈と技術でアニメーション化していることです。原作ゲームが発表された96年頃にアニメ化していたら、表現上のポリティカル・コレクトネスは時代なりのゆるいものだったでしょうし、映像面では3Dなどが使えなかったでしょう」。

 ◇当時の空気感を大事に A.D.A.M.S.は…

 原作ゲームには、分岐した並列世界をマップにして視覚するA.D.M.S(アダムス)と呼ばれるシステムがあった。アニメでどのように描かれるのかが気になったファンも多いだろう。

 「A.D.A.M.S.システムは原作の重要な要素なのですが、分岐マップはあえて変えました。ゲーム版では分岐が2、3方向しかなく、主人公・たくやの選べる人生の選択肢も2、3パターンしかありません。これはゲームのシステム上、仕方ないことです。しかし、理論上は選択肢が無数にあるはずです。突然すべてを投げ捨てて、放浪の旅に出ることさえできる。そういう理由で、たくやを一人の人間として描くために、アニメ版では分岐が無数に存在する3D空間をつくりました。ただ、ゲームファンとしては原作そのままのA.D. A.M.S.システムの分岐マップが見たい気持ちもあったのでエンディングに登場させました」

 平川監督は「細かい微調整はあるものの、原作の多くの部分は変えていません。可能な限り原作をそのまま描きたい、無理そうなら雰囲気だけでも残したいと考えながら制作しています」とも話す。ゲームが発売された当時、携帯電話は普及していなかったし、スマートフォンはなかった。ゲームには携帯電話もスマホも登場しないが、今回のアニメも同様だ。あえて、原作に忠実にしたのは「当時の空気感を大事にしたかった」という思いがあったからだという。

 ◇A4、6000枚のテキストを再構築 後半は驚きの展開も

 原作ゲームにはさまざまなルートがあり、全ルートがアニメ化されることも話題になっている。平川監督は、原作のテキストを何度も読み、アニメ化のために再構築していった。テキストはA4用紙で約6000枚にもおよび、「ゲームのせりふを覚えるくらいプレーして、パズルのように組み立てていきました」というから気が遠くなりそうだ。また、原作ゲームを知らない若いアニメファンも楽しめるように、工夫したところもあった。

 「リフレクターデバイス(並列世界を行き来するためのアイテム)の使い方や並列世界に関しては、原作でも理解が難しい部分なので、アニメ版では伝わりやすいよう尺を使って丁寧に描きました。また、キャラクターが多い作品なので『美月さんは~』などのようにキャラ名を呼ぶせりふをわざと増やして、視聴者が意識せずとも自然に名前を覚えられるよう工夫しています」。

 リメーク版ゲームから引き続き、主人公・たくや役の林勇さん、ユーノ役の小澤亜李さん、内田真礼さん、大西沙織さん、釘宮理恵さんら豪華声優陣も集結した。

 「新たなゲームから引き続き演じてくださる声優さんのお芝居が素晴らしい。アフレコはとても和気あいあいと行なっていて、余裕があるがゆえの無茶ぶりなども楽しんでいます。原作を知らない方にはもちろん、すでに原作をプレーした方にも、『YU-NO』の新しい変奏の一つとして楽しんでいただきたいと考えています」。

 「伝説の作品でファンも多い。期待を裏切れない。意志を受け継ぐつもりで作っています」と熱く語る平川監督。さらに「後半にはびっくりするような展開もあります」と明かす。アニメならではの表現でファンを驚かせてくれそうだ。

写真を見る全 15 枚

アニメ 最新記事