当世アニメ事情:2019年は劇場版の年? ニチアサが共通言語に(後編)

19年は「16年以来の劇場版旋風」が起こるのではないかというのが私の展望です
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19年は「16年以来の劇場版旋風」が起こるのではないかというのが私の展望です

 2018年も数々のアニメがテレビや映画館で私たちを楽しませてくれた。そんな中で毎シーズン注目されるのが「覇権アニメは何だったのか」論争だ。しかし、18年は少し違った動きがあったようだ。そして19年のアニメ勢力図は……。週に100本以上(再放送含む)のアニメを見ている“オタレント”の小新井涼さんが独自の視点で分析する。(後編)

ウナギノボリ

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 2018年の冬から夏クールにかけては、「ポプテピピック(ポプテピ)」と「名探偵コナン ゼロの執行人(ゼロ執)」を最後に、作品人気の分散と、「ヒプノシスマイク」や「VTuber」といったアニメ以外の盛り上がりによって、覇権アニメが生まれにくくなっていった時期であったと思います。後編では、こうした夏クールまでの展開を受けて秋クールまでを振り返り、最後にここまで振り返ってきた18年の流れを踏まえたうえで、19年の傾向を展望していきます。

 18年の秋アニメも、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」や「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」といった人気シリーズをはじめ、オリジナルアニメの「ゾンビランドサガ」や「SSSS.GRIDMAN」から、「中間管理録トネガワ」を番組ジャックした「1日外出録ハンチョウ」のようなスピンオフ作品まで話題作が豊富でしたが、やはり覇権といえるまでの作品は生まれませんでした。

 ところが、そうして夏から秋クールにかけて覇権作品が生まれず深夜アニメの人気が分散したこの時期、アニメファンの注目を一手に集めていたのが、朝や夕方のいわゆるキッズ・ファミリー向けアニメだったのです。エヴァコラボ回も盛り上がった「新幹線変形ロボ シンカリオン」や、西洋妖怪編も好調な「ゲゲゲの鬼太郎 (第6シリーズ)」、シリーズ初の男子プリキュア誕生に全ニチアサ民が沸いた「HUGっと!プリキュア」などは、注目エピソードを放送する度にSNSで話題になり、アニメ関連のニュースでも、「クレヨンしんちゃん」のしんのすけの声優交代や、「ポケットモンスター サン&ムーン」の放送枠移動などが話題になっていました。これは恐らく、深夜アニメの人気が分散してアニメファン同士でさえ視聴作品によって話題がバラける中、長期間放送されているキッズ・ファミリー向けアニメの話題が、アニメファンの中で唯一「毎週見ていなくても何となくついていける」共通言語になっていたのだと思います。

 また秋クールに関しては、「ゼロ執」以来、劇場版アニメが再び盛り上がり始めた時期でもありました。予想を超える大反響から上映を終了した劇場で再上映が相次いだ「若おかみは小学生!」や、シリーズ最高の好スタートを切っている「ドラゴンボール超(スーパー) ブロリー」など、年末にかけて劇場版アニメに続々と話題作が誕生していったのです。これは作品そのものの面白さはもちろん、「ゼロ執」ヒット以降、「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」や「カメラを止めるな!」といった、邦画の連続ヒットを受けて、劇場に足を運ぶ習慣が人々に根付いていたのも大きかったのではないでしょうか。
 
 こうして振り返ってみると、18年は、テレビで強烈な覇権アニメは生まれなかったものの、下半期にかけて深夜アニメの人気が分散する中で、キッズ・ファミリー向けアニメへと話題が収斂(しゅうれん)し、劇場版アニメが盛り上がりつつ終わりを迎えた1年であったと思います。そしてそんな18年の流れを踏まえたうえで考えると、19年は「16年以来の劇場版旋風」が起こるのではないかというのが私の展望です。

 理由としては、先ほど紹介した通り、18年後半にかけて劇場に足を運ぶ習慣が人々に根付いてきているのに加え、19年公開の劇場版作品に注目作が数多く控えていることがあります。新海誠監督の「天気の子」や湯浅政明監督の「きみと、波にのれたら」をはじめ、18年も大評判だった「劇場版名探偵コナン(劇コナ)」は、これまた人気キャラである怪盗キッドをメインにした「名探偵コナン 紺青の拳」を公開予定です。また「えいがのおそ松さん」や「KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-」、「劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEキングダム」や「ユーリ!!! on ICE 劇場版:ICE ADOLESCENCE」といった、かつて大旋風を起こした人気作品の劇場版公開も控えており、この中のどれかがまたその時期の覇権を握る可能性というのも十分に考えられます。

 一方で、これまでの覇権作品は、「放送(上映)される前はここまでヒットするとは思わなかった」作品が多いため、上記以外の伏兵が「君の名は。」以来の大ヒットを起こす展開というのも、個人的には期待したいところです。ここしばらくテレビアニメでは“覇権”が生まれていないという流れも踏まえ、今年19年はこれら劇場作品が大いに盛り上がる1年になるのではないかと私は思っています。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。明治大学大学院情報コミュニケーション研究科で、修士論文「ネットワークとしての〈アニメ〉」で修士学位を取得。ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)の全アニメを視聴して、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続中。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、現在は北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程に在籍し、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。

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