俳優の役所広司さん主演の映画「孤狼の血」(白石和彌監督)が12日から丸の内TOEI(東京都中央区)ほかで公開される。暴力団対策法成立前の、広島の架空都市が舞台。ヤクザ同士の抗争と、その間に入り、彼らを取り締まる警察組織が、それぞれの正義と矜持(きょうじ)を懸けて戦う姿を描いている。これまで、「仁義なき戦い」(1973年)をはじめとする数々の傑作ヤクザ映画を世に送り出してきた東映が威信をかけて作っただけあり、かなり暴力的でハード、かつ骨太な作品に仕上がっている。
ウナギノボリ
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昭和63(1988)年、広島県呉原市。暴力団組織が覇権争いにしのぎを削る中、新たに進出してきた五十子(いらこ)会系「加古村組」と、地場の暴力団「尾谷組」との間で抗争が起きようとしていた。そんな中、加古村組のフロント企業の金融会社社員(駿河太郎さん)が失踪。ベテラン刑事の大上(役所さん)と、新人刑事の日岡(松坂桃李さん)は捜査に乗り出すが、やがて事件は、暴力団と警察の血で血を洗う戦いに発展していく……というストーリー。
情報を取るためなら犯罪まがいのことを平気でやってのける大上役の役所さん。強烈にカッコいいキャラクターだ。その大上に不信感を抱きながらも次第に染まっていく日岡を松坂さんが好演。ほかにも、江口洋介さんや竹野内豊さん、ピエール瀧さん、真木よう子さん、石橋蓮司さんら実力派俳優たちが、それぞれの役を熱演している。
原作は、柚月裕子さんの同名小説。ややこしい話がみっちり書き込まれたその傑作小説を、「任侠ヘルパー」(2012年)や「日本で一番悪い奴ら」(16年)などの脚本で知られる池上純哉さんが、密度の濃さはそのままに、すっきりとまとめ上げた。
それに、白石監督が、やり過ぎと思えるほどのバイオレンスやビジュアル映えするシーンを盛り込み、映画らしい作品に仕上げた。「仁義なき戦い」を彷彿(ほうふつ)させるナレーションも心憎い。柚月さん自身、小説「孤狼の血」を書いたきっかけは「仁義なき戦い」にあると公言している。
最近は、草食系などソフトな男性が好まれるが、今作に登場するのは昭和の硬派な男たちばかり。いってみれば“絶滅危惧種”だが、しびれるほどカッコいい彼らをスクリーンで堪能したい。(りんたいこ/フリーライター)
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