江原正士:吹き替えに臨むストイックな姿勢 アドリブ多用の真相は…

声優として活躍する江原正士さん
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声優として活躍する江原正士さん

 米俳優トム・ハンクスさんらの吹き替えで知られる声優の江原正士さん。その“名演”ぶりを特集した「吹替王国 #9 声優:江原正士」が30日午後4時45分からCS放送の映画専門チャンネル「ムービープラス」で放送される。江原さんの吹き替えに臨む姿勢はストイックそのもの。アドリブを多用するとも言われている名手に、吹き替えへの思いを聞いた。

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 ◇1週間で5本の主役も

 江原さんは、ハンクスさんやビル・マーレイさん、ビン・ディーゼルさんらの映画の日本語吹き替えを担当してきたほか、「NARUTO -ナルト-」のマイト・ガイ役や「灼眼のシャナ」のアラストール役などアニメの声優としても活躍している。

 江原さんが吹き替えの仕事を始めたのは「相当昔」といい「劇団四季時代に『若草物語』で内気な少年ローリー役をやりました。劇団昴に入ってからは、相当本数をやっています。朝から晩までずっとスタジオに入っていました。そこで、ありとあらゆる役をやりました。若いのに、おじいさん役ばかりだったときは『どうしてオレは、じいさん役ばかりなんだ! ほかに本当のおじいさんがいっぱいいるじゃないか!』って思ったり(笑い)。一つの作品で6役全部おじいさんとか(笑い)」と振り返る。

 「今、吹き替えがちょっと弱っているかな」と感じているというが、これまでは「一番忙しかったのは、1週間のうちに5本の主役をやっていた時です。後にも先にもその一回だけですが、その時は誰を演じるのか分からない作品があったりして、ディレクターに聞くわけにもいかないし、焦りましたね。前にやっている場合は、キャラはいいとして、せりふ量が多いので仕込みが大変なんですよね。この時はいつ寝ていたのか分かりません」ということもあったという。

 ◇アドリブ多用のウワサが広がったのは…

 江原さんは吹き替えでアドリブを多用するとも言われている。しかし、ウワサが広がったのが真相だという。「昔、収録で横にいた先輩から『江原、ここでこう言ってみな』と言われ、本番で言っちゃったら、主役の先輩に怒られましてね(笑い)。それ以来、『あいつはいい加減なアドリブを入れるヤツだ』って思われるようになっちゃって。でも、僕はそんなひどいこと普段やらないんです! みんなびっくりしちゃいますから」

 「アドリブというか、語尾合わせのために『そうじゃないか』というせりふを『そうじゃないのか』と伸ばしたり、そういうことはします。口パクに合わせますのでね。例えば、大きく口を開けるストレスポイントがある場合、その口の動きに微妙に合わせるんです」と話す。

 さらに「ダメだということはやったことはありません。あとは、アドリブというか息遣いですね。臨場感を出したいので、例えば『君はどうしたいんだ?』って言う時に『で、君はどうしたいんだ?」っていうふうに、多少頭に息を入れたりとか、そういう芝居作りをすることもあります。ニュアンスを出して人物造形をもっと明確にするために、そういうアドリブは入れます。それと、内容を変えずにせりふの主語と述語をひっくり返したりとか、修飾語を変えたりとか、そういうことはやりますね。それはもちろん、ディレクターに聞いて、戻せと言われれば戻しますし、何も言われなければOKということです」とも語る。

 ◇作品のニュアンスをきちんと伝える

 江原さんが吹き替えに臨む姿勢は「何回も何回も練習するんです」と、ストイックだ。「途中で『今日はもういいや』って思うんだけど、時間がある限り『もうちょっとやろう』と。そうすると、『あれ? ここで口閉じてるんだ』とか、気付く瞬間がある。台本を見ながらやっているから、全部映像を見てるわけじゃないんですよね。せりふはある程度は覚えますが、練習を繰り返して映像を確認しながらやっていくと『あれ? こんな顔してるの? じゃあこの表現は違うじゃん』とかね。修正に修正を重ねて、作り上げていきます」と明かす。

 江原さんはアニメ声優としても活躍している。俳優の吹き替えとの違いは「若干違うと思いますが、僕らみたいな洋画系の声優を使うときは、アニメ系の“スキッ”とした芝居じゃないもの、いわば“雑味成分”の多い芝居を求められることが多いですね。僕らはディテールがはっきりしないような芝居をするので、そういうものを求められて、キャスティングされることはあります。ある作品で『今回は洋画系でやりたいと思います』と言われたこともあります。洋画系でやるっていうことは、撃たれた時のリアクションは『どわあああああああああ!』というような表現じゃないってことですよね。そういうオファーもありますね」とも語る。

 吹き替えへの思いを「やっぱり音が合っているということよりも、作品のニュアンスをきちんと伝えるということが一番大事じゃないかと思います。優等生の答えに聞こえてしまいますけど、それを失っちゃったらダメですよね。あるいは、オリジナルが劣っているなら、こちら側の作業で底上げする。それが吹き替え洋画を盛り上げるパワーかなと」と話す江原さん。「吹替王国」でも数々の“名演”を楽しめそうだ。

 30日は「ヴィンセントが教えてくれたこと」「トリプルX」「グリーンマイル」が放送される。

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