話題のマンガの魅力を担当編集が語る「マンガ質問状」。今回は、「マンガ大賞2015」にノミネートされたヤマザキコレさんのファンタジーマンガ「魔法使いの嫁」です。コミックブレイド編集部の新福恭平さんに作品の魅力を聞きました。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
--この作品の魅力は。
本作は、身寄りがなく生き抜くすべも持たず、全てを諦めた羽鳥チセという少女が「魔法使い」を称するひと為(な)らざるもの・エリアスに「弟子」として「将来の花嫁」として迎え入れられ、新たな世界を獲得し成長していく……という物語です。
その魅力を一言で語るにはなかなか難しいのですが、強いて挙げるとすれば、エリアスをはじめとした日本のマンガらしいキャッチーさを兼ね備えた部分と、海外の児童文学を彷彿(ほうふつ)とさせる本格的な幻想譚である部分のバランスの良さでしょうか。日本マンガ文化と海外文学、両方に対して深くアプローチしてきたヤマザキさんだからこそ出せる、絶妙なバランスが読者さんの「こんな作品を望んでいた!」という欲求に応えられる魅力につながっているのではと考えています。
--作品が生まれたきっかけは。
創作同人誌即売会に元となる同人誌をヤマザキさんが出されていて。下書き状態だったのですが、完成を想像した時に魅力的な作品になるのでは感じさせてくれる部分がとても多かったんです。読者の方をどう楽しませたいかもはっきりしていて、また内容について上記で触れた通り、バランスも優れていたのでその場で声を掛けたのがきっかけですね。同人誌の方は当時、その会場にて行われた他社マンガ賞に落とされて箸(はし)にも棒にも掛からない状況だったんですが「僕は面白いと思うので、これをうちでやりましょう」と。
その後、おおよその基本設定は、同人誌版とも変わりませんが商業作品とするにあたり、第1話だけで何稿も掛けてさまざまな検討を重ねました。お陰で互いに作品に対するコンセンサスといいますか、作品根幹の共有が取れて、メディアミックス化を考える現段階となってはそれがとても良い方向に作用していますね。
ちなみに、僕が声を掛けるに至った同人誌は、ヤマザキさんのご厚意により、原本と一切変わらぬ形で今後、必ず皆さまにもご提供させていただきますので、その時は連載作品との内容面での違いを楽しんでいただけますと幸いです。
--編集者として作品を担当して、今だから笑えるけれど当時は大変だった……、もしくはクスッとしたナイショのエピソードを教えてください。
担当してうれしい……というよりすごいなと感じたのは、ヤマザキさんのコミュニケーション能力に優れている点ですね。こちらが感じた曖昧(あいまい)な違和感をくみ取ろうとする意志と力があり、そこから導かれる対応力の高さがあって。とにかく他者を理解しようという所でのマインドがすごいなと常々感じております。特に読む側を受け入れる姿勢と度量は本当にプロフェッショナルで、共に仕事する上で尊敬できる方だと思いますね。リーダーファーストというか、読者さんのために仕事をしたいという考え方も非常に共感できます。
--今後の展開は?
ふたりの関係性が少しずつ変化する中で、チセもエリアスもこれから更に多くのものを、さまざまな形で経験して、迷い惑いながら少しずつ成長していきます。それは本当にかすかなもので気付きにくいかもしれませんが確実に彼らはひとつずつを学んでいきます。たくさんの人(とひと為らざるもの)の行き交う思いが、やがて来るそれぞれの季節のためにどう作用していくのか。「夜の愛し仔」としてチセの運命はどうなるのか。また、ふたりが成長することによって夫婦の関係はどう変化するのか。今後共ぜひご期待くださいませ。
--読者へ一言お願いします。
いつもいつも、皆さんのリテラシーの高さ、新しく入ってきた読者さんへの優しく親切な対応など、僕もヤマザキさんも感謝しかありません。皆さんの作品への敬意、愛情にいつも支えられています。たくさんのひとに本作の魅力を伝えてくれて、本当にありがとうございます。
アニメ化プロジェクトも動き始めましたが、WITとヤマザキさんの間ではプロジェクト以前のドラマCD時から現段階まででも驚くほど密なやり取りが繰り広げられています。Production I.G.とWIT STUDIO、マッグガーデンが「IG ポート」グループであるシナジーを最大限生かし、良い作品にすべく日々邁進(まいしん)しておりますので引き続き皆さまには、ヤマザキさんと、願わくはアニメ制作に関わるスタッフ皆さまも含めて、ご支援をいただけますと幸いです。皆さまがもっとも望むものは、原作で区切りが見えた時点でしかやれないかなと思いますので、ひとまずはあせらずに特装版6~8巻に付くオリジナルアニメの「魔法使いの嫁 星待つひと」をイベント上映とDVDにてゆっくり楽しんでいただけましたらと存じます。
また、弊社では「魔法使いの嫁」と、発売後即重版が掛かった「とつくにの少女」を中心に据えた「人とひと為らざるものの絆、交流」をコンセプトにしたウェブマガジンを2016年9月に創刊しますので、そちらもあわせて楽しんでいただけますと幸いです。
マッグガーデン コミックブレイド編集部 新福恭平
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