湊かなえ:「贖罪」黒沢清監督でドラマ化に「よかったね、私の子供たち」 DVDリリース

織田裕二さんのファンだという「贖罪」の原作者の湊かなえさん
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織田裕二さんのファンだという「贖罪」の原作者の湊かなえさん

 「告白」などで知られる作家・湊かなえさんの3作目の長編小説を「トウキョウソナタ」(08年)などで知られる黒沢清監督が映像化し、今年1月からWOWOWの「連続ドラマW」で放送された「贖罪」がDVD化され発売中だ。15年前の小学生の女の子が殺された事件を巡る被害者の母親と第一発見者の被害者の同級生4人、合わせて5人の女性の視点で連鎖する悲劇を描いた作品。女優の小泉今日子さんが被害者の母親の麻子を、4人の第一発見者が成長した姿を蒼井優さん、小池栄子さん、安藤サクラさん、池脇千鶴さんが演じている。原作とまた異なる結末を迎えた同ドラマについて「有名な監督の持つ独特の世界で表現してもらって、また新しいものを作っていただいた。『よかったね、私の子供たち』という気持ち」と話す原作の湊さんに、映像化への思いなどについて聞いた。(毎日新聞デジタル)

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 ドラマ「贖罪」は、15年前、ある田舎町で小学生の少女エミリが男に連れ去られ、殺される事件が発生。直前まで一緒に遊んでいた小学生4人は第一発見者となるが犯人の顔をよく思い出せず、事件は迷宮入りに。エミリの母・麻子(小泉さん)は、4人に「犯人を見つけなさい。でなければ、私が納得できるような償いをしなさい」と激情の言葉を投げつける。「償い」という呪縛にとらわれながら成長した彼女たちは、やがて連鎖する悲劇を引き寄せていく……という物語。

 湊さんは映像化に際して「映像化できないだろうなと思いながら書いたようなところもあったので、どんなふうに映像化してくれるのかなという楽しみが一番にありました」と話した。完成作を見て「本当に有名な監督の持つ独特の世界で表現してもらって、またなんか新しいものを作っていただいたような気になっているので。恵まれているなあと思います。『よかったね、私の子供たち』というような(笑い)」と想像以上のものが出来上がったという。

 キャストについては、まず小泉さんが麻子役に決まったと聞いて「小泉さんにやっていただけるんだ。ぜいたくだなあと思いました」と率直に感じたという。他のキャストについても「みなさん映画の主役をされるような方ばかり」と純粋にうれしさが先に立った。「本を書いたときは1章1人が主人公みたいな感じで、とくに麻子さんが主人公というのもなかったんですけど、麻子さんが全体の中で一つ貫いているものを見ると、なんかこの人を取り巻く物語だったんだなと思いました」とドラマによって原作の本質を改めて見直すきっかけになった。

 「麻子さんは子供に向かってあんなことを言って大人げないところもありますが、でも、すごく子供を愛していたお母さんだし、そういう子供っぽいところと母性と両方を持ち合わせている愛すべき存在で、小泉さんが演じてくれたことによって、いろんな見え方が一人の人の中に存在するということを表現してくださったと思うので、麻子さんという役が私の作品の登場人物ランキングの中でもものすごく上に来ました。『告白』の森口先生とわりと並ぶくらいの立ち位置に来たなと(笑い)」

 第一発見者となった4人の子供たちには自身の10歳のころ感じたコンプレックスをそれぞれにちりばめた。湊さんは「普通の子供だったので、そんなに(コンプレックスは)重くはありませんが、この4人にそれぞれ持たせたコンプレックスはだいたい私が小学校4年生、10歳くらいのときに持っていたものです。背が低かったりとか、2人姉妹の姉だったのでしっかりしなさいと言われ続けていたこととか、そんなに裕福な家じゃなかったから『リカちゃん人形がほしいな』と思ってもなかなか買ってもらえなかったこととか……。わりと全員に配ったような感じです」と明かす。

 完成したドラマを見て、原作者として一番驚いたのは最終話(第5話)だという。「原作で2行で終わらせていたところが、麻子は犯人と対峙(たいじ)する場面があって、本当に黒沢監督の解釈でできた1話を見せてもらった。映像としてこの最終話を持ってきてもらえたことで、映像化してもらってよかったという気持ちになりました。ああ、このとき麻子さんはこんな顔していたのかとか、すごく自分がその場に一緒に連れて行ってもらったような気持ちになりました」と喜ぶ。

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 湊さんの作品といえば今回の「贖罪」や映画化された「告白」のように女性の内面や心の闇を鋭く描くという印象が強い。だが「女性の内面を書きたいのではなくて一つの出来事に対して人間にはどういう思いがわき上がるかとか、どういう行動をするかというのが書きたいんです」と女性の心理にこだわっているわけではないと語る。「今回の『贖罪』でしたら、コンプレックスを持っている女の子たちがそれによって殺されずに済んだと思っていて、なおかつ殺された女の子のお母さんに『償いなさい』と言われたらどんな成長をするだろうと思って。そういうことを考えて作った人物なので、たまたま女の子ばかりになりましたが、ちょっとずつ男性目線も書きたいと思いますし、『告白』ではやっぱり森口先生のインパクトが強かったですけど、脇にいるのは少年2人で、とくに女性とかそういったものにこだわっているところはないです」と話す。

 そして「男性目線の小説もわりと書いているんです(笑い)。まだ長編では書いていませんが、短編などでわりと男性目線で書いていると、(自分で)気づかなかったことも見えてきたりしているので、そういった最近の作品もぜひよろしくお願いします」とアピールする。

 湊さんはドラマ好きで、小説家デビューする前にシナリオの賞に応募し入選したという経歴を持つ。「わりとドラマが楽しかった、すごく元気だったときに、ちょうどそれを楽しめる年齢だったことは、今の自分の財産になっていますね。先に脚本を応募し始めたのは単純に小説よりも脚本の方が書きやすいと思ったからで、その脚本を書くときに、書き方みたいな本を読んで、1時間の中にシーンを40~60本ぐらいがベストとか書いてあるのをみると、自分の書いたものを声に出して読み返しながら、ちょっと飽きる、しんどくなってくる前に場面を切り替えるとか、展開を変えてみようとか、ドキドキワードを入れてみようとかっていうのは、テレビドラマ的な発想なのかなと思います」と現在の小説の執筆活動にも影響を与えているようだ。

 一番好きな俳優は「織田裕二さん」と照れながら明かした湊さん。トレンディードラマの「東京ラブストーリー」や「お金がない」が好きだというが、残念ながら「来ないでしょ、私の作品には」と織田さんが自身の作品に登場する夢はあきらめているようだ。

 ドラマ「贖罪」は8月30日(現地時間)にベネチア映画祭に4時間半の長編映画として再編集されたインターナショナルバージョンが上映され、現地に黒沢監督が単身で赴き、記者会見に出席した。DVDコレクターズボックスは3枚組み、8980円で発売中。

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