ダーク・フェアリー:製作のギレルモ・デル・トロに聞く 少女と魔物の「知恵の対決を描いた」

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 テレビ映画の傑作「地下室の魔物」(73年)をリメークしたサスペンススリラー映画「ダーク・フェアリー」のDVDとブルーレイディスク(BD)が3日にリリースされる。両親が離婚し、心に傷を負いながら郊外に引っ越してきた孤独な少女とその家族が、田舎の古めかしい屋敷で幼い子供を襲って歯を食べる邪悪な魔物の群れに襲われる恐怖を描いている。少女の父を「LAコンフィデンシャル」(97年)の名優ガイ・ピアースさん、その恋人を最近トム・クルーズさんとの離婚騒動で世間を賑わしている、「バットマン・ビギンズ」(05年)に出演したケイティ・ホームズさんが演じている。「パンズ・ラビリンス」(06年)や「ヘルボーイ」(04年)で知られる鬼才ギレルモ・デル・トロさんが映画化を熱望し、自ら脚本と製作を担当した。デル・トロさんに映画に対する思いを聞いた。(毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 −−この映画の基にした73年に製作されたテレビ映画「地下室の魔物」について、あなたの思い出を教えてください。なぜこの作品はあなたにとってそんなに衝撃的だったのでしょうか。

 オリジナル作が怖かった一番の理由は、僕はその作品で初めてとてつもない勢いで襲ってくる獰猛(どうもう)で小さなクリーチャーを見たからだ。子どもは普通、力と脅威は大きさから来ると信じているから、ドラゴンやモンスターという巨大なものを怖がる。でもこの作品を見て、小さなクリーチャーの方が大きなモンスターよりはるかに恐ろしく邪悪だと思った。同時に、クリーチャーの髪の毛とかしわといったデザインが奇妙過ぎて僕にとって全く理解できない生物だった。でもどういうわけか理解できなかったからこそ「あれは本物に違いない!」と思い込んでしまった。子供にとって、クリーチャーたちのあの姿は妙に説得力があった。あの顔つきの険しさや、青ざめてしわのある雰囲気ゆえ、それは不気味だった。なぜなら、あいつらは知的で、戦略的に動けると分かっていたからね。怖かったのはあいつらの残虐さではなく、賢さだったんだ。

 −−それで、幼いデル・トロ少年はすっかり怖がってしまったと?

 全くその通り。あんなに怖くて興奮したことは滅多にない。今までの人生で心底怖かった映画は恐らく20本程で、その多くはテレビ映画だった。メキシコでは、米国のホラーテレビシリーズの黄金期が続いた。「四次元への招待」(日本劇場未公開)やダン・カーティス作品「事件記者コルチャック/ナイト・ストーカー」「事件記者コルチャック/ナイト・ストラングラー」「怪奇!戦慄の怪人/オカルトショック」(いずれも日本劇場未公開)といった作品。僕が住んでいたメキシコ・グアダラハラでは、こういった映画が夜遅くに放送していて、幸運にも僕の両親からは「見るな」と一度もいわれることもなくテレビを楽しんでいたよ。

 −−「ダーク・フェアリー」の作品の主人公は、恐ろしい試練を経験する10歳の少女です。ベイリー・マディソンさんが演じる幼いサリーのキャラクターをどう描こうとしたのですか。

 僕は知恵の対決を表現したかった。サリーは実に機知に富んだ女の子だ。頭の回転が速く、はきはきとして、エンディングまで肉体的にも圧倒されない。この作品はまさにサリーとクリーチャーとの知恵の対決であって、特にベイリーとケイティ(・ホームズさん)演じるキャラクターを、犠牲者ではなく能動的に描こうと決めていた。見て分かると思うけど、サリーは小さいけれど非常にタフな子なんだ。

 −−子供が主人公のホラー映画の場合、子供が受ける“被害”をどの程度スクリーン上で観客に見せるかといった点を考慮しないといけないと思いますが。

 もちろん、子供が主人公である限りそういう問題はあると思う。だけど、僕らは良識のある考え方の枠を超えたり、社会常識に反する内容の描写が含まれるホラー作品を作ろうしたのではなく、純粋に良質の、しっかりしたゴシックスリラーを作りたかっただけだから、それは懸念していなかった。あまりネタバレはしたくないけれど、テスト試写を行ったとき、一番強いあのキャラクターが最後に恐ろしい運命を目の当たりにするという事実に、観客は本当に衝撃を受けていた。でもそれがまた、オリジナルの作品でも僕が非常に感銘を受けた部分だった。ホラー映画が怖い理由の一つは不公平な部分が描かれるからだ。近ごろのホラー映画のエンディングには、ヒーローは生き残り、モンスターは殺され、すべてはうまくいく、といったしばしば公平な結末が多い。僕はそういうタイプの結末は信じていない。悪が生きていて、あんなキャラクターやこんなキャラクターが恐ろしい運命に苦しむといったエンディングに、僕はもっと興味があるんだ。

 −−通常メーキャップを使ってモンスターを作り出してきましたが、今作に登場する生きものはVFXで制作しました。それはなぜですか?

 物語に大きすぎるモノや小さすぎるモノが登場する際は常に、コンピューターグラフィックス(CG)を使わなければならない。CG以外の方法で撮影する場合は、巨大なセットを造り、誰かにクリーチャーのコスチュームを着させるという手法もあるが、この映画ではそこまでの製作費はなかった。だからVFXで制作したんだ。クリーチャーができるだけリアルに見えるようポストプロダクションの間は非常に慎重に、細かくディテールを付け加えていった。特にリアルな動きになるようVFXチームとは慎重に演出プランを話し合った。例えば、クリーチャーが足を滑らせるといったほんのささいな動きについても非常に気を配った。我々は小さなディテールをたくさん積み上げることで、本物らしく見せようとした。

 −−クリーチャーはあなたのデザインですか。

 あのデザインは僕ではなく、監督のトロイ・ニクシーが手掛けた。デザインをする前に、2人で決めたことは、オリジナルのテレビ映画でのデザインに近いものにしようという事だけ。毛に覆われた体と、干からびたプルーンみたいな顔つきのクリーチャーという基本は残しつつも、現代版にアレンジしようと決めた。

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 −−ホームズさんは、観客を作品に本当に引きつけるにはセレブ的な余計な荷物が多すぎると、強い批判を受けています。彼女をキャスティングする際に、その点で不安を抱きましたか?

 いいえ、その全く反対だ。大衆的な有名人であることを超えて、彼女がどれほど素晴らしい女優であるかを、人々は記憶にとどめるべきだと僕は思う。「go」や 「エイプリルの七面鳥」といったデビュー当時の出演作を見ると分かると思うけど、彼女はとても堅実な女優だ。何より彼女は非常に親しみやすく接してくれるから、ものすごく好感が持てる。世間がいううわさは正直言って何も気にならなかった。堅実に演技ができる知名度の高い俳優をキャスティングすることが重要だった。こういった映画では特殊効果が一番重要だといわれているけれど、それは違う。一番大切なのは役者だ。なぜなら、彼らの演技をもって初めて状況に真実味が出るからだ。我々はずっとケイティを希望し、ガイ・ピアースにも出てほしいと思っていた。彼らが出演をOKしてくれたときは本当にうれしかった。多くの役者たちは、ホラー作品をB級映画だと思っている。しかしちゃんとしたものを作れば、それは役者にとって素晴らしい表現媒体となる。「ローズマリーの赤ちゃん」でのミア・ファローや「アザーズ」でのニコール・キッドマンら、とにかくいろいろあるよ。

 −−ホラー映画のお決まりの表現を避けようと試みましたか?

 意識的に、いくつかのことを避けようと決めた。通常、ホラー映画に出る女優を「スクリーム・クイーン」と称すけれど、我々はケイティが演じるキャラクターが、本質的に怖がらないことを売りにした。最後までずっと彼女は全く恐れを知らず、それに対し、映画の中で最も未熟な登場人物はピアース演じる男性キャラクターなんだ。ベイリーの役のサリーが最も賢いキャラクターで、彼女は誰よりも先にこの危険な状況を把握して「家を出る」と言う。なぜならこういった映画では常に、見る者が「なんであいつら逃げないの?」と思うだろ。まだ10歳の少女なのに彼女は文字通り逃げるんだ。結局は連れ戻されてしまうけどね。また、登場人物が座って互いのことを説明し合うような見せ場は排除した。サリーと母親との関係については、彼女がかける2本の電話から分かる。1本は母が電話を取らず、もう1本で母は自分の娘のことよりもパーティーで出た刺し身のことを気にしている。「彼女はダメな母親だ」とわざわざせりふにして言う必要はないんだ。

 −−あなたの作品には少女を主人公にしたホラー映画が多いと思いますが、その理由は?

 「デビルズ・バックボーン」では、男の子たちが主人公だよ! 僕はおとぎ話とホラーの関係性に非常に興味があるんだ。アーティストとしても、語り手としても、僕は10代のころからそのつながりに強い関心を持っている。グリム童話は結構ホラーの物語に近い。一部のおとぎ話または初期のホラー映画では、お姫様もしくは「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」に出てくるキャラクターのような登場人物だった。僕は絶対に少女が犠牲者となるストーリーは描かない。僕はそれを注意深く避けるんだ。なぜならそれは退屈なだけでなく、好ましくないと思うから。

 −−ハリウッドでは最近、リメーク作品が数多くあります。リメークするに当たって注意すべき点はありますか。

 リメークをすることはダメなことではないし、最近に限らず昔から多かったよ。ただ、商売人根性の、経済的な計算から生まれたリメーク作品ほどひどいものはないと思う。スタジオが「このタイトルがある。それをリニューアルして簡単に金を稼ぐ。以上……。監督は? 誰でもいいんじゃない?」なんてね。でもデビッド・クローネンバーグは「ザ・フライ」をリメークして、良質だったオリジナル作品を超えるものを撮った。ジョン・カーペンターの「遊星からの物体X」は、歴史上最も素晴らしいホラー映画の一つだ。リメークをする時に注意しないといけないのは、ただ単に古い素材に頼ってリニューアルするのではなく、監督・脚本家・プロデューサーがちゃんとゼロからアイデアを考えて、その古い素材をうまく進化させることが大切だ。

 −−あなたがニュージーランドのウェリントンで「ホビット」(の脚本)を手がけている間、今作の撮影はメルボルンで行われていました。簡単に行き来ができるよう、撮影場所をオーストラリアにしたんですか?

 それが主な理由だ。僕は結局、撮影の85%、いや90%の時間はこの映画のセットにいて、もし他の場所で撮っていたら行けなかった。この映画は僕が長年追いかけてきた作品で、正に好きだからやれた仕事で、そばにいたかった。そして(「ホビット」の監督の)ピーター・ジャクソンは、そのことに最大の理解を示してくれた。僕が行きたいときにはいつでも行けるよう、彼が許可してくれたんだ。すごくやりやすかった。

 −−あなたは映画業界で最も忙しい方の一人で、数多くの企画に参加されています。すべて把握していますか?

 その“数多く”の企画のほとんどは実在しないか、実現しないよ。交渉段階に入る前にうわさとして世間に発表されてしまうから、皆さんが思うほど多くは抱えてないよ。数年前に「ギレルモは15年まで忙しい」という記事が出たけど、そう望むよ! どの企画も映画になったら、もう20本位作っているよ。でも現実はというと、「ダーク・フェアリー」などは13年もやっている。脚本ともともとの契約が交わされたのがそのぐらい前からなんだ。「Pinocchio(原題)」も2年前に発表されたばかりだけど、もう6年も関わっている。だから思われているほどめちゃくちゃな状況ではない。キツイのは認めるよ。自由な時間は全くない。でも、僕は自由な時間が好きじゃない。僕にとって自由な時間は最悪で、そのことは僕の家族が一番よく知っているよ。

*……キャストによるキャラクター紹介やメーキングなどの特典映像を収録したDVD(3990円)とBD(4935円)は3日にリリース。

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