黒川文雄のサブカル黙示録:コンプガチャ騒動 終わりと始まり

 最近の騒動といえば、「コンプリート(コンプ)ガチャ」でしょう。市場規模が2500億円を超えるソーシャルゲームの収益源となっている「コンプガチャ」のシステムについて、消費者庁が「問題あり」として近々見解を公表して、従わない場合は措置命令を出す……という内容です。

ウナギノボリ

 5日に新聞記事が出るやいなや、ツイッター、フェイスブックのフィード、ブログなどでの書き込みが相次ぎました。その段階では、消費者庁は内部で問題提議は行っていますが、正式な見解を出したわけではありません。実際にゴールデンウイーク明けの7日の段階では、ソーシャルゲーム各社は「正式な要請が来てから対応したい」と待ちの姿勢でした。

 しかし、松原仁消費者担当相が8日の会見で、景品表示法違反の可能性があるとして、業者に注意喚起する方針を固めたことが明らかになると、翌日の9日にはDeNAやグリーなど6社がまとまって、「5月末日ですべてのコンプリートガチャを廃止する」と発表しました。また、決算の席では、それぞれの社長が「現行法に違反しているという認識はないが、社会的に問題視されている」「社会的に責任を負っている企業として真摯(しんし)に対応した結果」とコメントしました。

 「コンプリートガチャ」の高額利用者の問題は、業界内では指摘済みで、過去に何度もそういう意見が出ても是正する空気はなかったにもかかわらず、なんと早い決定でしょうか。そもそも、本当に後ろめたい気持ちがないなら、異議を申し立てる手段もあったはずです。しかし、あっさり折れたということは、グレーゾーンの感覚は当事者として何かを感じていたと認めたようなものです。ソーシャルゲームに批判的だったゲーム会社からは、マフィア映画よろしく「ヤツらは高く飛びすぎたのさ……」なんてせりふが聞こえてきそうです。

 さて今回の件で、コンプガチャがなくなることについて各社への収益の影響は軽微なものとして発表をしていますが、果たしてそうでしょうか。それは今後の決算発表で明らかになることでしょう。

 この問題が注目を集めたのは、一般常識では考えられない数十万円という高額利用者が出ても、ソーシャルゲーム会社がそれらに配慮する対策を取らなかったことにあるといえそうです。もちろん企業は利潤を追求するのは当然の権利ですが、これからは利用者のことを今まで以上に考える必要があるということです。また消費者も、より深く考えてサービスを利用する必要がある時代ということでしょう。確かに公共の救済機関に相談するのも大事ですが、それで今回の高額請求の支払いが戻ってくるかといえば難しいのが実情のようです。

 結局、「コンプガチャ」をしていた各社が注力していたのは、「面白いゲーム作り」ではなく、「もうかるシステム作り」だったわけです。それがどういう結果をもたらしたか、よく考えるべき時期に来ています。今回の「騒動」は終息したかに見えますが、これからが「事件」の始まりです。もちろん「今度は法律に触れないように、もうかるガチャを開発しよう」というのはナンセンス。今回の騒動が、ゲーム作りの「本道」に立ち返ってもらえるきっかけになれば、「騒動」も意味があったといえそうです。

 ◇著者プロフィル

 くろかわ・ふみお 1960年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。

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