浅野ゆう子:CGシーンは「怪獣だと思って演じた」 「劇場版SPEC~天~」に出演

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 10年にTBS系で放送が開始され、多くの視聴者の心をつかんだ連続ドラマ「SPEC」が、映画化され、7日から公開される。常識では計り知れない特殊能力(SPEC)を持つ者たち、いわゆる“スペックホルダー”による犯罪に、戸田恵梨香さんふんする当麻紗綾(とうま・さや)と、加瀬亮さんふんする瀬文焚流(せぶみ・たける)の警視庁公安部の特別捜査官コンビが挑むという設定のドラマだった。今回の劇場版では、1日に放送されたスペシャルドラマ「SPEC~翔~」ともども、ドラマでは解明されなかった数々の謎の答えが提示される。ドラマの演出を担当した堤幸彦監督が手がけた。今回、劇場版でスペックホルダーとして新たに登場するのが、浅野ゆう子さん演じるマダム陽(ヤン)と、伊藤淳史さん演じる“伊藤淳史”だ。自らを「スペックビギナー」と称し、「堤作品が大好き」と公言する浅野さんに、映画のことや堤監督のこと、今後の抱負などを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 ◇「アバター」の役者の苦労が分かった

 −−今回のマダム陽役のお話が来たときの率直な感想を。

 とにかく堤監督の作品が大好きなので、二つ返事でお引き受けしました。ただ、連続ドラマは真剣に見ていたわけではないので、正直なところ、いくら大好きな西荻(弓絵)先生の本(脚本)でも、読んだときは理解できませんでした。人間関係だけでも把握しておかなくてはとDVDを見たんですが、さらに分からなくなりました(笑い)。

 −−浅野さんがオファーを受けた段階で脚本が書き直されたそうですね。

 いわゆる“当て書き”というんですか、私を想定して出番を増やしてくれたそうで、とてもうれしかったです。

 −−マダム陽のSPECの特性上、コンピューターグラフックス(CG)による特殊映像が多いんですが、演じる側としては想像力が試される分、大変だったんじゃないですか。

 「アバター」の役者さんの気持ちがよく分かりました(笑い)。それは大げさですが、怪獣映画の怪獣だと思って演じていました。ただ、映像が分からないぶん仕上がりは楽しみでした。何よりも一番好きなのは、前半で(警視総監役の)麿(赤兒)さんと(情報官役の)利重(剛)さんに私が憑依(ひょうい)してしゃべる場面。あの口と声は私のなんです。口だけ撮りますといわれて、そのときは意味が分からなかったんですが、出来上がりを見たら正真正銘、私の口。しかも、指先に描いてある顔の口も私のなんです。あれを見たときはたまらなくうれしかったです。宝物です。

 −−作品全体を通しての感想はいかがですか。

 自分が出ている場面もすごいなあ、やっぱり怪獣映画だったんだと思ったら、そのあとの伊藤(淳史)くんの手が、怪獣映画としてのとどめを刺していましたので、もうビックリしました(笑い)。

 −−歌手の伊丹幸雄(いたみ・さちお)さんや元プロボウラーの中山律子さん、プロゴルファーのローラー・ボーさんといった人名ギャグが出てきます。

 分かりました? 時代が古いんですよねえ(笑い)。監督と一緒にスタジオでやっていると、周りの若いスタッフはシーンとしてるんです、分からないから。だから監督は私にばかりぶつけるんです。私を喜ばせてやろうと思ってやってくれているのかと勘違いしたぐらいです。それで作品が成立するのかと不安になったんですが、そのまま行きましたね(笑い)。

 −−松田優作さんの「なんじゃあこりゃあ!」もありました。

 ごめんなさい、あれは私が考えました。堤監督に、「松田優作さんをやってもいいですか」とたずねたら、「いいよ」とおっしゃるので、失礼だなとは思ったんですが、これには竜雷太さんが出ていらっしゃるし、私の初めての出演ドラマが「太陽にほえろ!」で、あのとき竜さんと数カ月ご一緒したので、だったら「太陽にほえろ!」で行こうと。

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 ◇「深いけれど難しい。でもいい作品」

 −−堤作品のどんなところが好きなのですか?

 現場にいて、ふざけているとしか考えられないんですよ。例えば、この前にお世話になった「トリック 新作スペシャル2」のときは、逃げる場面で欽ちゃん走りをしてくれとむちゃくちゃなことをおっしゃるんです。でも、仕上がったものを見るとものすごくしっかりした作品で、すごい才能だと思います。ご自分の頭の中ですべてをつなぎながらやっていらっしゃるからブレがないし、仕上がりを見て、なるほどと納得できるんです。天才ですね。

 −−初共演の戸田さん、加瀬さんの印象はいかがですか。

 2日間しかご一緒していないのであまりお話しできなかったのですが、可愛らしい方々ですね。戸田さんは出身地が同じ神戸で、実家が非常に近いということが判明し、親近感が湧きました。加瀬さんには、撮影時間が長かったので、「大丈夫ですか、疲れていませんか」とすごく気を使っていただきました。

 −−今後どんな役をやってみたいですか。

 時代物が好きなので、近松(門左衛門)作品であったり、「唐人お吉」であったり、そういうものをやってみたいですね。あとは、メリル・ストリープさんがマーガレット・サッチャーさんを演じたように、実在の人物というものにも興味があります。

 −−改めて、今回のマダム陽役を振り返っていかがですか。

 ギリギリのラインでやらせていただいています。このシリーズがお好きな方たちが見て、私が出ていることでまず「?」マークだと思いますし、見て、面白いと思ってくださる方と、浅野ゆう子は一体どうしちゃったんだと、ぐっと引かれる方がいらっしゃると思います。公開されて、どちらに転ぶかは不安です。今後の私の仕事にも影響しますし……なんて、それは冗談ですが(笑い)、堤監督が大好きなので、こんなふうにフィーチャーしていただいてとてもうれしかったです。

 −−作品を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。

 非常に深い作品だと思います。シャイな堤監督が持っている、切ない今の時代に向けてのメッセージというものがふんだんに盛り込まれている作品です。SPECがどうとかという上辺だけのことではなく、人の心のあり方とか生き方とか、生きていることってなんだろうということまでが表現されているような気がします。

 −−確かに、彼らはエキセントリックではありますが、それぞれに抱えているものがありますね。

 私が演じたマダム陽もそうですが、SPECがあることで非常に切ない人生を送っていたりするわけです。彼らが何に救いを求め、どう生きてきたかということを考えると、結構心にズシンと来ますね。いい作品だと思います。ただ、難しい。1回見ただけでは理解できない。いまだに私も理解できていないので、あと数回見ようと思っています。

 <プロフィル>

 1960年、兵庫県生まれ。70年代にアイドル歌手としてデビュー。初めてのドラマ出演は72年の「太陽にほえろ!」。その後、徐々に女優業にシフトし、88年「君の瞳をタイホする!」「抱きしめたい!」で主演し“トレンディードラマの女王”の異名をとった。95年、映画「藏」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。ほかの主な作品に映画「八つ墓村」(96年)、「功名が辻」(06年)、「鈴子の恋 ミヤコ蝶々 女の一代記」(12年)、舞台「大奥」(07年~)など。6月の明治座公演「黒蜥蜴」の出演を控える。初めてハマった日本のポップカルチャーは、悩んだ末に少女マンガ誌の「りぼん」と「マーガレット」。ちなみに、小学校1年生のときに映画館で見た、アラン・ドロン、チャールズ・ブロンソン共演の仏映画「さらば友よ」のラストシーンにシビれ、「役者になりたいと思った」という。

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